くまちゃん

グリッドマン ユニバースのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

グリッドマン ユニバース(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

1993年春。

円谷プロダクション創立30周年を記念して制作された特撮ドラマ「電光超人グリッドマン」。そのさらに30年後にこういった形で日の目を見る事になるとは誰が想像しただろうか。当時は黎明期のインターネットをいち早く取り込み、視聴者を放置したことで「早すぎた名作」の刻印が押された。
マルチバースは流行りを通り過ぎてもはや世界を広げる定石と化している。
しかしそもそも「電光超人グリッドマン」は異世界での異変が現実世界に影響を及ぼし異世界で暴れる怪獣を倒すと言った物語だ。これはこのままマルチバースに当てはめることができる。TV版ではコンピューターから街中へ降臨していたが今作のようなパラレル設定にもなんら違和感がない。つまり、IT面だけではなくエンタメ設定としても前衛的だったと言える。ちなみにオリジナルでは異世界から怪獣や魔王カーンデジファーが現実世界に介入しようとする描写もありそこも今作に通じる部分だろう。

脚本を担当した長谷川圭一は幼少時代凄惨なイジメにあった。その経験とそこから派生した善悪に関する深い哲学は後の彼の作品に多大なる影響を与える。
平成ウルトラマンシリーズを手掛けた際、英雄と怪物は表裏一体であり完璧でも超人でもない人間の制御外に位置する力であると定義付け、子供向けとは思えない重厚でハードなシナリオを展開してみせた。その思想は今作にも反映されグリッドマンが自身の非を認め謝罪し、己の弱さを受け入れる展開に色濃く見られる。

今作の黒幕、マッドオリジンの声は神奈延年が担当している。彼はデビュー間もない当時、「電光超人グリッドマン」第一話内で武史のパソコンの電子音声として出演しており、その縁で今回のオファーに繋がった。

また「電光超人グリッドマン」の主人公、直人を演じた小尾昌也が「SSSS.GRIDMAN」「SSSS.DYNAZENON」にてゲストとして出演しており、それは今作にも引き継がれている。
緑川光、神奈延年、小尾昌也とくれば、次は是非真地勇志の出演を熱望せずにはいられない。平成ウルトラマンとも縁のある真地勇志ならそのキャスティングに不合理はないはずだ。

グリッドマン世界を構築した新條アカネと、肥大したグリッドマンという宇宙によって副次的に生成されたダイナゼノン世界。この設定や展開は良く練られており、考えすぎる近年の観客の興味を惹くに値する。

ただ「SSSS.DYNAZENON」でみられた良くない部分が今回にも表れている。
例えばアシストウェポンとグリッドマン、またはグリッドナイトが合体した際に、全てが足し算でデザインされた設計のため、格好いいとは言い難い。好きなものに好きなものを足せば美味しくなるわけではない。印象としてはブランド品を身に着けすぎてイタさのある成金セレブと言った所だろうか。
また「SSSS.DYNAZENON」では「SSSS.GRIDMAN」では少なかったオリジナルとの繋がりや、恋愛要素を取り入れることで作品の差別化を図っていた。
しかし今作の大きなテーマの一つとして裕太と六花の恋愛が描かれる。
つまりマルチバースによって作品世界が繋がることで両者の明確な違いが不明瞭になってしまった感は否めないだろう。

「SSSS.GRIDMAN」の世界観は抽象的で哲学的で宗教的で庵野イズムを孕んでいる。それでいて庵野作品よりもわかりやすく、初見にも親切。
見所の一つである戦闘場面は下から見上げるようなアングルが臨場感を盛り上げ、車や建物が転がるミニチュア演出など、特撮への深い造詣と敬意が見られる。
「電光超人グリッドマン」は低予算で作られたため、ミニチュアな街中ではなくコンピューターワールドと名付けられた異空間を舞台にしている。そのため他の円谷作品と比較してもアクロバットなアクションが目立つ。建物を破壊する心配がないためだ。今作は街の中での戦闘ではあるが、オリジナルを想起させるアクロバットの数々が往年のファンにはたまらないだろう。さらにオリジナルでは恐竜型の怪獣も短い足で回し蹴りを放つなどの高い運動能力を発揮しており、それも今作に踏襲され丁寧かつダイナミックに描かれていた。

創造主たる新條アカネの実写パートのインパクトは強い。穴から覗く少女の瞳は二次元世界を超越した神の領域。
「SSSS.GRIDMAN」では孤独だったアカネに今作では友達ができていた。
オリジナルのラストでグリッドマンは信頼できる友達が最強の武器であるとの言葉を残している。
アカネにリアル友達ができたのは喜ばしいことであり、またマッドオリジンとの闘いに友を救うため馳せ参じるのはデウス・エクス・マキナそのものだが、オリジナルに寄り添った結果ともとれる。

ラストのグリッドマンと別れる場面はオリジナルの最終話オマージュだろう。

グリッドマンファンが一番胸を熱くするのは学園祭の準備シーンで流れるとあるBGMと舞台挨拶での緑川光の涙。そこに尽きる。
今シリーズは特撮を斬新かつ革新的なアプローチをもってアニメーションに落とし込んだ結果である。
多くの人に「グリッドマン」を知ってもらえるのは嬉しくも寂しい。
このマルチバースが今後どのような展開をみせるのか、期待しながら待つとしよう。
くまちゃん

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