ナルミニウム

HiGH&LOW THE WORST Xのナルミニウムのレビュー・感想・評価

HiGH&LOW THE WORST X(2022年製作の映画)
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形骸化し、アジト・縄張りを示す名前の機能しか持たなくなった学校という箱庭の中で起こる、社会たるものを徹底的に排除した最高なファンタジー映画。

現実では今はほぼ絶滅してしまった「ケンカ」カルチャー。幻想化した今だからこそ「荒れた学校・ヤンキー・ケンカ」といった要素はどこまでもフェティッシュになっていく。セット、衣装一つとってもやりすぎなくらいド派手な記号化。「ごくせん」などがまだ現実と近いものだった00年代を多感な時期として過ごした私は懐古の情に包まれた。
ハイローの登場人物たちは、今はもう亡き「ケンカ」という業を物語の中で永遠に繰り返す。「テッペン獲る」という目標はその先がないからこそ行き止まり、輪廻は繰り返され、シリーズ化し不動の作品になっていく。
あの頃の「ケンカ・拳・のち友情」に感じるカタルシスが確かにあり「力こそパワー」な筋書きにやったー!!と悦に入った。

顔の良い男たちの拳のぶつかりあい、血の流し合いを、ペンライトやうちわ持ち込みOKの「無声援上演」と銘打ち上映すこと。(ケンカ映画にペンライトってどういうことだよ、どのタイミンで振ればいいんだよ。)スクリーンの中で起きている血と血の争いを、コーラを飲みながらポップコーンを食べながら鑑賞するのは9割が女性客。
彼らを取り巻く「社会」に加え、ストーリーまでザックリ省略され、大々的に艶やかなケンカシーンに振り切った潔さも含め、このケンカ映画はいわば「男同士の・ホモソーシャル的なヒエラルキー争い」の皮を被った、男性の客体化とも取れる。
カメラワークからもそれが伝わってくる。画面に映る全員をカメラに栄える位置につかせた、徹底した「被写体をひたすら正面から捉える」構図の秀逸さ。頻繁に出てくる日の丸構図や顔面ドアップの意図は、主観的な内面の描写でも、実験的映像美の探求でもなく「いかに被写体を美しく捉えるか」にあるように見えた。これが、ハイローシリーズが一部で「豪華なEXILEのMV」と言われる由縁の一つかもしれないと思った。

K-POPアイドルとして韓国で活動するNCT127の中本悠太、SKY-HIが立ち上げたグループBE:FIRSTの三山凌輝を迎えつつ、サントラとして流れるのはひたすらにEXILE TRIBEの楽曲。
監修したHIROが目指すのは協業、いわば「ともだちになろうぜ」なのか、はたまた宣戦布告なのかを考察させられるところまで含め、見どころ満載のファンタジー映画だった。素晴らしきエンターテイメントをありがとうございました。
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