じゅ

サバカン SABAKANのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

サバカン SABAKAN(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

原作小説を買ってざーっと目を通してみた(まだちゃんとは読んでない)けど、亜子姉ちゃんと由香さんと軽トラにいちゃんと、あと小学生1人相手によってたかって3人でメンチ切る小物ヤンキーは映画オリジナルのよう。
みんないいキャラだった。由香さんお元気にしていますか。


物書きの男が鯖の缶詰を見ると思い出すという、ある少年とのある夏の話。

その少年たけちゃんに半ば強引に連れ出されてブーメラン島にイルカを見に行ったひさちゃん。少年2人の大冒険に結局イルカは現れなかったけど、2人に強い絆をもたらした。その後も2人で海を、川を、山を駆け回って、内田のじじいと激闘を繰り広げて、たけちゃんの亡き父がよく作ってたくれたというサバ缶寿司を食べて・・・。
そんな中ひさちゃんは、たけちゃんが「ひさちゃんは自分を友達と思っていない可能性もある」と思っていることを不意に知ってしまう。そんなたけちゃんの不安を寂しくも腹立たしくも感じたひさちゃんは、少しずつたけちゃんと距離を取る。
そのまま、たけちゃんの母の不運な死により彼は親戚に引き取られて引越すこととなる。ひさちゃんは居ても立ってもいられなくなり、たけちゃんと親戚が電車を待つ駅へ。「友達やけん。」「知っとる。」「またね。」「またね。」大切な言葉を交わして、旅立つたけちゃんを見送った。

時を経て、ひさちゃんは物書きに、たけちゃんは鮨屋に。故郷の長崎から離れていたひさちゃんは、あの時親友とお別れした駅へ向かう。そこには30年ぶりに会うたけちゃんの姿。


お別れのくだりはやべえ。泣くて。最初に友達になったときの「またね」をまた出すのもやべえし、内田のじじいはかっけえし、父ちゃんの包容力すげえし、母ちゃんも亜子姉ちゃんもオアシスかよ。福地桃子さんは5年かそこらか前にテレ東でやってた浅草ベビ9っていう深夜番組でたまに見てたけど、なんか立派になったな。あと内田のじじい、ちゃんと甘いみかんくれたのか。
たぶんせいぜい県内の引越しだったんだろうけど、経験的に小学生からすれば今生の別ってかんじだと思う。そんなことを思うと尚更胸が締め付けられる感じがしたし、そこでの「またね」っていう台詞もより深く突き刺さってくる。


ブーメラン島に行ったのって、その道中で強敵に絡まれたり、海に溺れかけたり、その度におとなの人に助けてもらったり、単にひさちゃんとたけちゃんの絆を形成するだけじゃなくて2人をちょっとだけ強くして世界をちょっとだけ広げてくれるようなイベントでもあった印象。子供の頃は何もかもが何かに繋がり得るもんな。

途中で絡んできた彼らって、小学生1人相手に3人がかりでメンチ切ってくるようなどうしようもない小物だけど、そりゃあその1人サイドの小学生からしたらとんでもなく強大な存在なんだよな。そんな存在をたった1人で黙らせた軽トラにいちゃんなんてなおのこと。
特にたけちゃんって、誰に対しても強気に出るような少年だったけど、あの軽トラにいちゃんにだけは何か敵わぬものを感じていたように思う。やたら大人しくしてたし。そんなにいちゃんに「負けんなよ」と渡された帽子は、亡きお父さんがくれたらしい大切な麦わら帽子と一緒に壁に掛けられていた。たけちゃんにとって彼との出会いは相当大きいものだったんだろうなと思う。

ひさちゃんはそりゃあ由香さんに惚れるて。かっこよすぎるだろ。たぶん高校生くらいだろうけど、俺が小学生の頃に見た高校生はめちゃめちゃ大人だったし、ひさちゃんにとってもそうだっただろうと想像してる。で、死ぬ気で泳いで行ったブーメラン島よりさらに遥か向こうに韓国があることを知って、そこはあの由香さんすらまだ行ったことがない場所で、見渡す限りよりさらに広がる世界があることを実感する。韓国から流れ着いたサイダーの錆びた空き缶は、ひさちゃんにとって果てしなく広い世界の象徴だったんじゃないかと思う。

あと、たけちゃんが防波堤に石で描いた絵って、ちょっと大袈裟に言うと、前人未到の山の頂上とか月面とかに旗を立てるようなことだったんじゃないかと思ってる。自分の足で自分の世界を広げた印だろう。

由香さんに焼いてもらったサザエの殻に、サイダーの空き缶。子供の頃って何でもかんでも勲章になるもんだな。


「世界をちょっとだけ広げる」みたいな話だと、ひさちゃんにとっては内田のじじいもそうだったと思う。
上には上がいる。ひさちゃんはたぶん、たけちゃんこそ海も山も知り尽くしていると思っていたけど、たけちゃんよりさらによく知っている人がいた。それが内田のじじいとやら。全力で走りまくって遠くへ逃げても、どの道を通ってきたのかいつの間にか背後を取られてる。で、あの絶対に負けは認めないかんじでいつも上からなたけちゃんが、「次は絶対に逃げ切る」との他じゃ到底聞けない負けを認めたセリフを口にする。


たけちゃんお母さんの話を聞いて、たけちゃんの人となりについて多少納得した気がしたな。曰く、仕事を掛け持ちする都合上で下の子4人の世話を任せっきりにしててるんだと。
そりゃあ友達云々言ってる暇もないし、ひさちゃんとか同級生と関わるにしても下の子への接し方しか知らんからああいうかんじになるか。どうなれば友達、みたいなことも知らんから、ひさちゃんが自分を友達と思ってない可能性を心のどこかで根拠なく感じても仕方ない。


そういえば大人たけちゃんの顔が映されなかったのは何だったんだろう。大人ひさちゃんは普通に顔を合わせていたけど、視聴者にだけ見せてくれなかった。
ひさちゃんの思い出の中のたけちゃんだけを俺らの中に保存するためとかかな。あの夏の思い出に焦点を当てた話だし。そう思うと綺麗な終わり方。
じゅ

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