たわらさん

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのたわらさんのレビュー・感想・評価

4.1
別次元からの追跡者は『ターミネーター』、能力のパッチと自己言及は『マトリックス』、マルチバースと相互理解は『スパイダーマンNWH』(厳密には違うが)と一つに絞ることが出来ない映画の面白みが詰まっている作品。監督の毛色として下品でクレイジーなのだが、突然ゴリゴリのSFが挟まるため困惑を隠せない。国税庁から常に「何を見せられているんだ…」
というオールジャンルの混沌っぷりから唯一無二な作品といえよう。

物語の根幹はとても単純であり、エブリンが煌びやかなifを認知しても、今の世界を選択して家族との確執を取り払う物語である。予定調和的なのは良いのだが、フリである確執の部分が短いためラストのカタルシスがない。革新的な映像表現がある割には、テーマは何百回目だしLGBTについてはもはや遅れてるくらい。また娘のネタバラシも早いため、物語の推進力には欠けた。

荒唐無稽な家族ドラマとしては『ミッチェル家』に及ばず、低予算SF『アップロード』と比較してもアクションは映えなかったりと散々ではあるのだが、演出や一部シーンを切り取ると目を見張るものがある。また、目玉やレミー、トロフィー、インド映画といった小道具や小ネタの使い方が巧く、秀逸な脚本。突拍子もない行動がトリガーとなり能力を身につける設定も、普段取らない選択が多次元宇宙へと移行するのをドラマチックに描いたもの。

若い世代を正とされがちな風習がある中でも、中心がぽっかりと開いた現代病(nothing)と前時代的なエブリン(everything)との対立になっている構造自体は面白い。監督曰くネットに触れている現代人はマルチバースの渦中にいるらしく、意図せずインフルエンサーの発言やマジョリティの思考に染色されて自我失いつつある我々に説いてる作品にも感じた。

おばさん×カンフー×マルチバースの前知識だけで視聴したが、欲を出せばおばさん要素を期待してしまった。ミシェル・ヨーは綺麗過ぎるよ。

今はマルチバースものの黎明期であり、ifによる現在地の見直しとしてタイムループものに変わって、今後増えていく気がします。

日本人にとっては直接的な下ネタがキツいので、苦手な人には本当にハマらなそうではある。自分は犬をぶん投げるシーンが一番笑いました。
たわらさん

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