R

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのRのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2023年のアメリカの作品。

監督は「スイス・アーミー・マン」のダン・クワンとダニエル・シャイナート。

あらすじ

トラブルだらけの家族と破産寸前のコインランドリーを抱えた冴えないおばさんエヴリン(ミシェル・ヨー「ミニオンズ・フィーバー」)の元にある日、「別の宇宙から来た」という夫のレイモンド(キー・ホイ・クァン「オハナ」)が現れる。唐突に世界の命運を託されたエヴリンは別の宇宙=マルチバースの世界で想像もできないような壮大な闘いに身を投じることになる!

初めてその存在を知った時は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスぅ?めっちゃ長いタイトルだなー。」くらいの感じだったんだけど、制作も新進気鋭の制作スタジオ、A24だし、一筋縄じゃいかない作品なんだろうなぁとも思っていたら、蓋を開けたら、そのA24の作品群の中でも、製作開始以来の空前の大ヒット!そればかりか、今年のアカデミーでも、最多11部門にノミネートされるなど「大本命」として話題沸騰とあって、これは映画ファンなら観にいかねばならない作品だと思い、早速鑑賞。

いやぁ…呆気にとられるとはこのこと!多分、自分が今まで観てきた映画の中でも屈指の変な作品でした!!

お話はあらすじの通り、主人公は本当にどこにでもいそうな「おばさん」。優しいけどどこか頼りない旦那と決して仲は悪くないけど、良くもない娘、そして、痴呆気味の父親そんな「家族」に囲まれ、税務処理に齷齪するフツーのおばさん、そんなエヴリンの日常を情報が目まぐるしく錯綜しながら描く。

ただ、そんなフツーのおばさんを演じるのはあのミシェル・ヨー!と言ったところで俺自身恥ずかしながらヨーさんの凄さを語るにはあまりに作品を観ていないからなんとも言えないが、古くはジャッキー・チェンやドニー・イェンなどの誰しもが知るアクションスターと共演し、「グリーン・ディスティニー」などの中国映画といえば!な作品でも存在感を発揮、近年でもMCU作品初のアジアヒーロー「シャン・チー」だったり、ヘンリー・ゴールディングやオークワフィナなど新たなアジアスターを輩出した「クレイジー・リッチ」、果ては「ミニオンズ」の新作など幅を広げて活躍する、まさに中国映画界のスター女優として長年君臨し続けてる偉大な女優さんだ。

そんな彼女がフツーのおばさんを演じているので、やはりそのオーラがそうさせるのか、独特の「気品」や「気高さ」なんかがはみ出てはいるが、そこは流石大女優!化粧っけのない顔と毎日の生活をなんとか維持し続けるのが精一杯、その中でかつてはあったはずの自らの「可能性」はとっくの昔に失われつつあるエヴリンというアジア人のおばさんを体現している。

また、そんなエヴリンの旦那レイモンドを演じるキー・ホイ・クァン。この人に関しては、今は毎日のアカデミー関連のニュースで取り沙汰されている通り、かつては「グーニーズ」や「インディ・ジョーンズ」の憎めない相棒ショートなどアジア人子役キャストと言えば!な映画をそれほど知らなくても一回は見たことある顔の子役さんだったんだけど、その後子役から俳優へとステップアップするためのあまりにも高い壁に挫折、裏方にまわり、俳優の道を引退しようか…とも思っていたらしいんだけど、上述の「クレイジー・リッチ!」を観て俳優復帰を決意、裏方の仕事をしながら決して諦めることなく、俳優として返り咲く未来を思い描いていた結果のこの「エヴエヴ」での栄光!もうこの一連の流れを読み解くだけでも感動を禁じ得ない!で、実際本作を観てみると、もう本当子役のあの頃をそのまんま大きくおじさんにした感じで、何より声の幼さが特徴的。無邪気さを撒き散らしながらも、気弱で頼りなく、それでいて、常に優しさを内包するレイモンドというキャラそのものという感じでやっぱイイ!!まさか、あの時の子どもが今の映画界を席巻し、IMAXのスクリーンで今この瞬間を観る瞬間に立ち会えるとは…つくづく人生って面白いし、映画を観続けてきて良かったと思える瞬間だ。

また、2人の一人娘のジョイを演じた新星、ステファニー・スー(調べたら「シャン・チー」のあの冒頭で出てきた意識高めでどこか鼻につく友だち役だった子!)、エヴリンの父親で名高るアジア人監督にキャスティングされ、現在500本以上の作品に出演し続けている重鎮ジェームズ・ホン(「トロールハンターズ:ライジング・タイタンズ」)といった役柄だけ見たらなんの変哲もない家族そのものなんだけど、演じる俳優陣は掘れば掘るほどものすごい人たちばっかですごい。

しかも、家族以外でもそのほとんどがアジア人キャストばっかの中で脇を固める税務署のベテラン職員ディアドラ役があの「ハロウィン」シリーズのジェイミー・リー・カーティス(「ハロウィン KILLS」)だかんね!キャストだけ観ても明らかに普通の作品じゃねーってことはわかる!

で、お話はというと、そんな普通のおばさんと家族が「マルチバース」に巻き込まれて、世界の命運をかけた闘いに挑む!という常人には考えつかないような突飛が過ぎる内容だから面白い!

「マルチバース」といえば、ちょい最近までは「パラレルワールド」とも呼ばれたりする、いわゆる「多元宇宙論」つまり「自分のいる世界とは別に複数の世界が同時に存在する理論物理学」であり、近々でもレビューした「アントマン クアントマニア」をはじめ、今のMCU「フェーズ5」でも切っても切れない最注目な要素となったジャンル。

それをMCUとはまた別の観点で描く本作はまさにカオス!!

そもそも今作におけるマルチバースの世界観設定が面白い。その始まりは別の宇宙「アルファ・バース」からやってくる別のレイモンド、通称「アルファ・レイモンド」がエヴリンのもとにやってきて、助けを求めることから始まっていくんだけど、どうやらエヴリンたちがいる世界よりも、文明が発達しているようで、アルファ・バースのエヴリン(故人)が開発した両耳につけるマルチバースと繋がる装置を「様々な条件」をクリアして、起動させることで別の宇宙の自分とリンク(バースジャンプ)させることができる!

で、その条件ってのが、「その場では本来ならやらないような「変なこと」」をすること!この「ルール」が面白くて、例えば「リップクリームを食べる」だったり、「書類で指と指の間を5回切る」だったり、「(上述の)ディアドラに「愛してる」と言う」だったりと極端に突飛な行動を起こすことで、自分の世界とは地続き、つまり「ありそうでなかった」くらいのバースを超えて、「本来ならあり得ない」世界へジャンプすることができるんだけど、絵的にはまるで「ガキ使」とかバラエティの「罰ゲーム」的な馬鹿馬鹿しさがありながらも、それによって新たな自分に「開眼」させることができる、まさに特撮ヒーロー的な変貌を遂げることができる!というカタルシスもあって、実に見ていて面白かった!

その中で、例えばアルファ・レイモンドはウエストポーチをまるでヌンチャクのようにして税務署の警備員数人をバッタバッタと薙ぎ倒すカンフースターになったり、エヴリンもボードを自由自在に操れるピザ屋の店員や肺活量が超人的な歌手、包丁さばきやヘラ使いで華麗なテクニックを披露するシェフ、はたまた指がソーセージになっちゃったりする!!

また面白いのがエヴリンやレイモンドだけでなく、今作の「悪役」が使役する一般人たちもどんどん「開眼」していくんだけど、それぞれかたや柱をベロベロ舐めたり、おケツを何度もコピー機で複写したりと、みんな一斉に変な行動を取り出すのがくだらなくも面白い!!

しかも、それまではアルファバースからの遠隔指示でジャンプしていたエヴリンが「ある邂逅」によって、その指示を離れて独自に「変なこと」をやって独自の条件をクリアしてジャンプする流れになってからは、どんな世界と繋がるか、やってみないとわからない「ガチャ」要素もあって更に燃えて面白くなっていく!

で、そんな中でアクションムービー的に主にエヴリンが敵の盾を奪い、ピザ屋のスキルを活かしてブンブンその盾を振り回しながら敵を薙ぎ倒したり、シェフのスキルを使ってお高いキャリアウーマン+ワンちゃんとD.I.Yアクションを展開したりとミシェル・ヨーのアクションスターとしてのスキルを最大限に活かしたアクションも展開していくんだけど、それが最も現れるシーンが中盤!

キャリアウーマンとの戦いの後、どうやら武器スキルに特化した敵との戦闘にもつれ込むんだけど、その中で装置が停止、新たにバースジャンプしなければならない!とあって、お互いが目にしたのが、ディアドラの最優秀職員賞の先が尖ったトロフィー、で、そっから考えつくは「おケツをトロフィーにぶっさすことができるか」笑。で、そっからトロフィー生ケツ刺しをかけた攻防が繰り広げられるんだけど、そこに新たに参戦するのが序盤でレイモンドに返り討ちにあった警備員、しかも下半身は丸出しで既にそのオケツには尖ったオブジェが笑(しかもモザイクバリバリ)!で、そっからケツにオブジェを刺した敵×2vsカンフーマスターエヴリンのアクロバティックな戦いが繰り広げられていくという…マジで監督のダニエルズの頭の中どうなってんだ笑?マジで馬鹿馬鹿しくも、なんかずっと見ていたい、あまりにもカオスがすぎるアクションシーンとなっていて、間違いなく本作の最も面白いシーン。

しかも、本作観ていて驚いたのが、マルチバース要素が本格的に入り込んだ後は、そのほとんどがエヴリンたちが赴く「税務署」だけで展開していく、ほとんどワンシチュエーションなのだ!いやぁ、マジでこんな映画観たことないよ!

で、そんなエヴリンがマルチバースを通して、世界を滅ぼす闇の王「ジョブ・トゥパキ」と世界の命運をかけて闘うことになっていくんだけど、そんなジョブ・トゥパキの正体がなんと実の娘のジョイ!どうやら、アルファバースのジョイが幾多のバースジャンプを通して、精神が崩壊してダークサイドに堕ちてしまったらしいんだけど、元の世界のジョイは地味な女の子って感じだったのが、ジョブとなった彼女は性格含めて実にエキセントリック!服装もジャンプすることで、まるで極彩色のジャングルの鳥類のようなド派手な衣装に身を包み、止めようとする警備員を紙吹雪にして破裂させたり、パイルドライバーで脳天直下で即死させたり、ダンサーにして盾にしたり、チンコのようなディルド武器を使って撃ち倒したりとマジでチート的な圧倒的な強さ。それまでの愉快なジャンプとは異なり、明らかに闇を孕んだその強さが実に驚異的。

ただ、この理解できない存在感とエヴリンに対して明らかに突き放したような態度を見ていると、序盤のエヴリンとジョイの険悪ではないけど、決して理解し合ってはいない「母娘」の関係性を端的に表しているようで、なんか見ていて辛かった。

で、そんなジョブの圧倒的な強さに敗れ、自身も暗黒面に堕ちてしまうエヴリン。せっかく繋いだ道筋も自らの手で絶ってしまい、もはやジョブのようになってしまうのか…と思った矢先、その道筋を繋いだのが、レイモンド。

自分のせいでエヴリンの未来を奪ってしまったことをずっと責任に感じていたレイモンドの気持ちを知り、ライジングするエヴリン、その手によって、数多のバースの敵たちもそれぞれがエヴリンの手によって昇華していく流れは気持ちいい。

で、ラストに待ち受けるのはジョブ/ジョイ。

上述の通り、分かり合えていなかった関係性の2人なんだけど、ジョイが同性愛者で、そんなことを知り得ないゴンゴンにジョイの彼女を紹介する際に「仲のいい友だち」と言ってしまったことが決定的な亀裂となってしまう。そんな出来事があった後、真の意味でエヴリンが娘を理解してもなお、それでも「分かり合えない」と離れようとする娘を追って、抱きしめるエヴリン、また「黒いベーグル」に身を投じようとするジョブを家族総出で制止する、それぞれの世界でマルチバースという突飛な設定はあれど、その皮を剥けば、結局のところシンプルに「母娘の和解」の話であり、「家族」の物語だったことがわかる決着は実に感動的だった。

という感じで、観てみたら思ってる以上に「変な映画」だったわけだけど、ぶっちゃけ面白かったといえば、事前に「A24空前の大ヒット」だったり、「アカデミー最多ノミネート」のハードルがいくら流されないと思っていても存在しちゃってるわけで、ただでさえ目まぐるしく展開する話運びとマルチバースという複雑怪奇な設定をないまぜにしたストーリーについていけず、思ったよりは超えていかなかったし、楽しめなかったのが本音。

ただ、特に前半は面白かったし、後半「家族」の話に集約していく流れになってからは、やっぱ自分ってものを大切にしなきゃなと思った。

「あの時、ああしていれば」そう思ったことは誰しも一度はあるはず。ただ、そんな「可能性」も毎日の世界を生きるので精一杯で無数にある選択肢を潰しては無くしていくわけで。

ただ、そんな中でもやれることはあるはずで、だからこそ本来ある「自分」を大切に、これからある「選択肢」の中で何を選んで生きていくか、それを選ぶのも「自分」で選ばなかったとしても「自分」で。

本当にマルチバースというものがあるかどうかはわからないけど、せめて自分が生きるこの世界の「自分」だけは責任を持って笑って生きていられるようになりたいと思える作品でした!

あと、家族に疎遠感情を抱いている俺でも家族に会いたくなるそんな作品でもありました。
R

R