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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのhoshのレビュー・感想・評価

3.3
冴えない日々を送り、確定申告に追われる中国系アメリカ人のエヴリン。そんな彼女がマルチバースを行き来し、悪と戦うように言われるが…というお話。A24作品。今年度オスカー最有力候補。

とても楽しみにしていたし、好きな要素が多かった。ただ全体としてはハマりきれなかったというのが正直な所。笑いと語り口が肌に合わなかったのと、単純に長いかな。

マルチバースが単に話の風呂敷を広げるための装置ではないのがよかった。
何でもアリになるのではなく、「馬鹿なことをしてジョブ(能力)を借りる」という発動条件と制限がある。危機的状況でどのカードを切るかという能力バトルに近い見やすさがあり楽しめた。

また、「ありえたはずの人生」と「今、ここを肯定するため」の物語的な必然と絡められれていることも胸を打った。
特にウェイモンドのどんな状況下においても親切を貫くこと、それこそが自分の戦いである。そしてどんな岐路に立ったとしてもエヴリンを助ける。という信念にも近い叫び。素晴らしいよ。なんて厚みのある演技、人物像。こういう男性性が描かれることに心の底から感動した。
エヴリンはエヴリンで「失敗しつづけた世界」の自分だから何にでもなれるという視点のもたらし方は良かったし、ジョイの足掻きにも共感しっぱなし。

憎しみや後悔に対してそれでも今を肯定して生きていくこと、優しさをもって人に向き合うことが説かれていき、カオスな戦いと家族の修復が重なっていく語り口も今日的で良かった。バカなことやりつつ色んな諸要素を包括する温かさと心地良さがある。今後こういう娯楽映画が今後スタンダードになればいいなと思うくらい。

と挙げたように良いところは沢山あった。ただ楽しかったりのめり込んだりとこの作品にエキサイトすることはなかったな。「もしも…」という人生の可能性について考えさせられる作品は大好きなのだけど…

この作品を見終えた後に得る歪なままでも良い、人生楽しんで生きてやろう。今を抱きしめてなんとかやろう。って感動、自分は今作よりも最近ハマっている『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』や『ブラッシュアップライフ』の方が断然強く感じるんですよね。今作、これだけ尖った表現をやりつつ結局は家族の関係性に収斂していくので。それも幸せの形だけど、よりオルタナティブな関係性に行きつく所が見てみたかった。上に挙げた2作品は友情と知らない人同士、とサードプレイス的な部分が大事にされており心地よいんだよな。

映像表現に対してもすごい!と理屈では分かりつつも、楽しい!まではいかなかった。面白い!よく出来てますね!でも刺さらない!という少し離れた感想が1番適切かもしれない。
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