takato

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのtakatoのレビュー・感想・評価

4.2
 アカデミー賞総ナメおめでとうございます! 


 本作を見て連想したのは、日本のアニメ「四畳半神話大系」である。コメディーが主体で、主人公の色んな有り得たかもしれない可能性を描き、最終的に感動的な人生論というべき結論に到達するというコンセプトが非常に似ている。ラストに色んな世界がバーっと連続するオーバーラップな演出を上手く使っているのも同じである。


 故に本作の邦題は「コインランドリー宇宙大系」とでもすべきだったろう。センスのない下手な邦題付けて叩かれるのが怖いのかもしれないが、原題そのまんまもどうかと思う時もある。昔のように印象に残る格好いい邦題を付けるセンス是非復活させて欲しいもんである。


 ループものやマルチバースものは、本気で作ってる作品は最終的に人生論に行き着きざるをえない。「恋はデジャブ」が典型だが、無限の可能性ではなく、今この瞬間を肯定する地に足のついた本当の意味での大人になる物語。これが繰り返し描かれ続けるに足る感動的なテーマだからこそこれらのようなタイプの作品は絶えることはないだろう。


 本作も奇抜なアイディアやギャグや格闘は、あくまでその終着点に至るまでの旅路の乗り物であって。一種の方便だろう。ただ、結論のテーマだけを投げ出しても面白くないし、真面目一辺倒に人間ドラマでやるよりは遥かに多くの人に間口が広くなるから取られた戦略ともいえる。正直本作は、目的のための手段なその部分はジャンルは違うが「四畳半神話大系」に比べちゃうと少々冗長に感じる瞬間もあった。しかし、終盤の追い上げが凄いからオールオッケー!でした。


 「可能性という言葉を無限定に使ってはいけない」。「四畳半神話大系」の今は亡き藤原啓治さん演じる樋口師匠のセリフが脳裏をよぎる。「自分の他の可能性というあてにならないことに望みを託すのが諸悪の根源なのだ。今ここにいる君以外他の何者になれない自分を認めなくてはならない。君が有意義な学生生活を送れるわけがない。私が保証してあげるからドンと構えているがいい」。本作のテーマも正にこの言葉に言い尽くされているように思える。


 「四畳半神話大系」ではどんな世界でも主人公にちょっかいをかけ続ける妖怪のような悪友小津がキーキャラクターだったが、本作ではそれが娘だろう。可能性が全て絶たれた最後の瞬間に至って主人公の「私」はやっとなんとも思っていなかった自分の平凡な人生や周囲の人々がどれだけかけがえのないモノであったか気づく。なにより、どんな世界でも自分にちょっかいをかけ続けながらも自分と共に居続けてくれた小津唯一の親友であったのだと…。


 本作のクライマックスと同じように「四畳半神話大系」のラストも感動的である。マルチバースという手段が見事にテーマを表現するための演出として見事に活かされている。どんなに辛く苦しくても、意味ある時がほんの一筋しかなくても、それでも今ここにあることを肯定し続けろ。そんな本当の意味での勇気が胸をうつ。本作が良かった方は是非「四畳半神話大系」を。


 Dr.マクガイヤーさんは、カートヴォネガットとの類似を指摘していて興味深かった。虚無に堕ちそうな不条理な世界の中でもbe kindたれ。それが一番難しくて強いこと。クライマックスのセリフと曲の意味は、家族だからとかじゃなく、人生そのものについてのことだろう。人生という厄介で面倒で意味もないように思えるモノと、それでも共に生き続けるという意味で「私達は家族」。
takato

takato