じゅ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

ヨー姐さんが好きなんだおりゃあ。動き回るミシェル・ヨーも、動き回らないミシェル・ヨーも。


そのヨー姐さん(エヴリン・ワン)は夫のウェイモンドと潰れかけのコインランドリーを営みながら納税に追われている。国税庁の監査官との面談に向かったある日、夫が何かに憑依されたかのように豹変する。実はエヴリンのいる宇宙以外に可能性が分岐してできた無数の宇宙が存在し、初めて別の宇宙の自分と脳をリンクさせることに成功した宇宙(アルファ・バース)にいるウェイモンドがこちらのウェイモンドに「バース・ジャンプ」していた。目的はマルチバースの均衡を崩さんとするジョブ・トゥパキを止めること。アルファで多くの若者にジャンプの訓練をさせた結果産まれた怪物だった。そしてアルファのウェイモンドが言うには、今まで多くの宇宙でエヴリンの死を見てきたが、この宇宙のエヴリンは"何かが違う"。別の宇宙の自分の特技をインストールするデバイスを駆使し、戸惑いながらもエヴリンは戦いに巻き込まれていく。
そんなエヴリンらの前に現れたジョブ・トゥパキ。その正体は娘のジョイだった。アルファでバース・ジャンプの訓練に駆り出され、群を抜いた適性を発揮してやがて彼女しか知らない目的のため暴走するようになった。アルファでジョブ・トゥパキと戦う部隊が、彼女のジャンプ先を減らすべく現れる。
エヴリンは娘を救いたかった。手当たり次第に別宇宙の自分の特技を取り込みながらアルファの部隊と戦う。戦う中で己の能力を開花させたエヴリンはあらゆる宇宙の自分と繋がる。カンフーマスター、ピザ屋の看板のパフォーマー、盲目の歌手、指がソーセージになる進化を遂げた人類、人形、砂漠の岩山の頂上に転がる石、...。それがまさにジョブ・トゥパキの狙いだった。自分が見た景色を見ることのできる者を探していた。そして、世界の全てを載せてブラックホールと化した"ベーグル"に吸い込まれ、ほとんど無意味な世界から2人で消えることを考えていた。
エヴリンは、ただ、娘を救いたかった。意味のある時間が極めて少ないなら、その時間を大切にすると言って娘を抱きしめた。ジョブ・トゥパキの目的は消え去り、無数の宇宙の均衡が取り戻された。


振り返ってみると俺の頭の中が支離滅裂でおもろ。まあ筋が通ってたらなんだってかんじだけど。そういうのはクリストファー・ノーランにでも任せとけ。まあでもノーランだったら、白で統一した対称的で仰々しい大部屋に白で統一した仰々しい装束を纏った人間を並べて大部屋の奥の白いカーテンを開けたらそこにあるのが宙に浮く黒いベーグルなんてことは、仮に思いついてもやってくんない気もする。

支離滅裂というと、わけわかんない言動がバース・ジャンプの"ジャンプ台"になるっていうコンセプト大好き。額ホチキスとペーパーカット4回とあのぶっといのを尻に挿すのは嫌だけどもwあとスティック糊食うのも嫌だな。
アルファ・ゴンゴン(おじいちゃん)の部隊がファイティングポーズ代わりとでも言わんとばかりに熱唱し始めたり柱ぺろぺろしたりランプシェードとやったり尻プリントしたりするのおもろすぎるんよ。


あのジョブ・トゥパキってやつはなんで消えたかったんだっけ。生物の発生条件が揃わなかった大多数の宇宙とか、あらゆる宇宙の自分が見えてしまったらしょーもねえ存在だなって思ったんだっけ。手持ち無沙汰にベーグルに胡麻やらケシの実やらなんやかんやこの世の全てを載せてみたら何かが見えてしまったんだっけ。
まあでもなんにせよ連れが欲しくて自分と同じ素質を持つエヴリンを探してたんだ。かわいらしいな。あとマルチバース早着替えめっちゃ好き。

本作の主役たるエヴリンもこのジョブ・トゥパキと同等の力を得たわけだけど、それを成し得た"何か違う"その何かは、他の宇宙のエヴリンと違って完膚なきまでにダメダメな人生を生きてるみたいなことだったか。夢とか目標を抱いてはことごとく失敗してきたとか、特技がまるでないとか、そんなかんじ。そうやって空っぽだからこそなんでも入るみたいなことなんだろうか。アルファ・ウェイモンドはなんて言ってたっけ。
まあどうにせよ、裏を返すとジョブ・トゥパキすなわちアルファ・ジョイもそういうことだったのかな。やることなすこと何もかもダメダメで、志もがんばりも何もかも空回り。でもそのアルファ・バースでは母親のエヴリンがマルチバースの実在を示す偉大な発見をしてさらに脳をつなぐ装置を発明するとかいう偉業を成し遂げた。もしかしたらそうやって自分自身に価値を見出せない人生だったからこそ、意味ある時間などほとんどないとかだからベーグルの中に消えちまおうとか破滅的な思想に陥っていたんだろうか。どっかの宇宙ではジョイがコインランドリー兼自宅でのゴンゴンの誕生日会から姿を消そうとして、なろうと思えばもっと出来のいい私の母親になれるのにみたいなことをエヴリンに言う場面があったか。あれはあの宇宙のジョイの言葉だったのか、はたまたマルチバース間を飛べることを知ってるとうかがえる辺りアルファ・ジョイとしての言葉だったのか。
どっちにしたってジョイが抱える悲しさなのか寂しさなのか満ち足りなさなのかがエヴリンに抱きしめられる腕の中に消えてったようでよかった。


ちなみにこの手の物語で、どうでもいいのは分かっててもちょっと気になるのが、このマルチバースってやつはどこまで包含してるんだろうっていう。
MCUなんかの世界観をだるく&おもしろくしてるマルチバースなんかは、初めからいくつかの宇宙があって各々よろしくやってる(やってた)かんじで、つまり一直線の時間軸が大量に並行してるようなかんじだと思ってる。そんな語れるほどまだ観てないけど。
本作のマルチバースは、たぶん初めに1コの宇宙があって、次の瞬間に状態1に遷移した宇宙と状態2に遷移した宇宙に分裂して、それが細胞分裂してくみたいにどんどん分かれてってるかんじなのかな。つまり一点から始まって伸びてる時間軸(というか状態遷移図的なもの?)が2本にも3本にもグラフみたく分岐してくかんじ。
そうすると、上手く言葉にならんけど、ジョブ・トゥパキがマルチバース(の全てのジョイ)を包含したのか、依然マルチバース(で分裂し続けるジョイの可能性たち)がジョブ・トゥパキを包含しているのかみたいなところを想像してみるのもまた楽しい。

前者なら特に問題なさそうかな。好きにやっといてくれ。
後者だとすごく興味深い。たぶん、あっちの宇宙に飛んだジョブ・トゥパキとこっちの宇宙に飛んだジョブ・トゥパキみたいなかんじで分岐することになって、「ジョブ・トゥパキがあっちの宇宙に飛んだ後の宇宙」と「ジョブ・トゥパキがこっちの宇宙に飛んだ後の宇宙」ができる。分岐したジョブ・トゥパキとその宇宙がまた分岐して、さらに分岐して、いつか複数人のジョブ・トゥパキがジャンプした先で"衝突"するかもしれない。そしたらどうなるんだろう。

ジョブ・トゥパキが包含するかマルチバースが包含するかじゃなくて(←粒度がおかしい)、分岐した世界の別のところに飛ぶバース・ジャンプをしたかしなかったかという状態遷移自体が世界の分岐の中に含まれるか、っていう話か。つまり、「Aさんがある時バース・ジャンプした世界」と「Aさんがある時バース・ジャンプしなかった世界」に分岐するのかしないのか。するんだったらおもしろそうだなと思ってる。ジャンプして、ジャンプを解いた方と解かなかった方とで分岐して、解いた方が解かなかった方にジャンプして、みたいなことを繰り返してどっかの自分の中に自分を増殖させられたりするんだろうか。できたら何だって話だけど。


あと、アルファ・ウェイモンドが何らかの手段で持ち込んだのか実はどこの宇宙にも代用品があるのか知らんけど、あのヘッドセットみたいなデバイスがあればアルファじゃない宇宙間でジャンプできてたってことは、仮にいろんな宇宙の自分にあのデバイスを配ったら別の自分をインストールする方のジャンプで入れ子にできたりするのかな。自分Bがバース・ジャンプして自分Aをインストールして、自分Cが自分A+Bをインストールして、自分Dが自分A+B+Cをインストールして、...、みたいな。めっちゃつよいんじゃね(小並)
どっかの悪役がやって爆発してそう。


まあ、どっかの宇宙の俺へ
こっちにジャンプしてきても特に得るものないからそっとしといてくれよな。


全てはカンフー!
じゅ

じゅ