tntn

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのtntnのレビュー・感想・評価

3.9
無数の選択肢から一つのショットを繋いでいく映画の原理そのものは、マルチバースと相性がいいと思う。
即物的な器官が丸ごと出てしまう笑いだから、下ネタでも性的な視線の気持ち悪さを感じない。腰につけてるポーチから武器を出すというのもファリックに見えて、出てくるのがアレというすっとぼけ。
面白かったけど、家族制度という規範は厳然と残るし、そこにクィアが包摂される印象は拭えなかった。ジョイのパートナーであるベッキーにいくらなんでも主体性がなさすぎるのでは。物語の都合に合わせて、主人公の一家から排除されることもあれば、包摂されることもあるキャラに見えてしまった。生まれた時に与えられる家族と、パートナーシップや結婚という段階を経て関係を結ばされる家族があるとして、前者の複雑な愛情関係(イヴリンとジョイの関係性)は押し付けがましくなく、とても丁寧に描かれていた。後者にももう少し描写を割いて欲しかった。
移民2世、3世の家族が直面する生きづらさ(人種、言語の壁など)があるからこそ、家族間の繋がりは必要だと思うけど、その中で個人の主体性が奪われる状況まで描いた『マイスモールランド』を去年見ているので、テーマの掘り下げ不足を感じる部分もある。
とはいえ、見ている間はとても楽しかったし、イヴリンの物語には素直に感動した。ケイト・ブランシェットとミシェル・ヨーの対談がめちゃ良かった。
無機質なオフィスからカオスが生じる展開に、『マトリックス』『マルコヴィッチの穴』といった世紀末のアメリカ製「見ている世界が全てではない」映画の系譜として読めるのかなとか思ったり。
tntn

tntn