豚

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの豚のレビュー・感想・評価

4.5
あの日選んだことで変わるもの、変わらないもの

コインランドリーを経営する女性の前に別次元の旦那が現れ、突如全宇宙の平和を守るミッションに巻き込まれていくSFコメディアクション。
一言で説明するのがめちゃくちゃ難しい作品なんだけれど、最近流行りのマルチバース系映画。
話題のA24配給、アカデミー賞本命ということでも話題になってるのかな。

経営がうまくいかない、旦那との関係も冷え切っており、娘は超絶反抗期で…という、絵に描いたような"何もうまくいかない人生"を過ごしている主人公が、人生をガラリと変わる経験をしていく。
序盤は結構「何を言ってるのかわからん」展開が続いてしんどさがあるものの、わかりやすいコメディや、オールドスタイルでスタイリッシュなカンフーアクションでガンガン進んでいってくれる。
別次元の自分=違う惑星、違う人生の自分にアクセスし、その経験を現在の自分にインストールしながら戦っていく、という設定ではあるのだけれど、細かい説明は省かれているので、「なんとなくそういうことなんだろう」的スタンスで観るのが正しい見方なのかな。
そもそも全部理解するのは無理がある。

ぱっと見ド派手な作風に見えるのだけれど、実は根底には普遍性のあるテーマを描いているのが特徴。
途中から「どうやって着地するんだろう?」と思って観ていたけれど、観終わればなるほど納得という感じ。
こんな見た目でこんな展開してくる!?という脚本もあり、終盤は物凄く感動してしまった。

なぜ主人公エヴリンが失敗だらけの人生を過ごしているか、なぜ旦那ウェイモンドと結婚したのか、なぜ娘ジョイは反抗をするのか、さまざまなピースが緩やかにはまりだす終盤の展開は圧巻で、かつ押し付けがましくないバランス感覚が凄い。
いわゆる"社会的弱者"の映画でありながら、かといって決して"強者"に反転しない洗練された物語に舌を巻いた。
昨今のオスカーではとくに評価されがちな多様性の要素が、相当に盛り込まれているのは正直なところ。
「女性主人公」「アジア系」「移民差別」「同性愛」「貧困」といったポリコレ要素がガンガン出てくるけれど、主題をそこに置いておらず、軽妙かつ下品なジョークやバイオレンスの派手さでうまく包み込んでいるので、あんまりノイズにならない。
80〜90年代のマッチョな父親と息子という王道路線が、ここに来てしっかりとアップデートされたなぁと感じた。
まさに"新しい映画像"といっても過言ではない気がする。

主演はミシェルヨー。
一回引退したんだっけ?
旦那役はキーホイクァン。
「グーニーズ」の!となる人が多いかも。
正直ザ・スターといった俳優はいないけれど、それはこの映画において正しい姿かなと思う。
ちなみに監督は「スイス・アーミー・マン」のダニエルズ。
あれが良かった!という人は絶対合うはず。

かなり絶賛してはいるものの、好き嫌いが激しそうな作品だなぁとも感じます。
とくに前半の展開についていけないと、乗ることができずそのままリタイア…というパターンもあるかも知れないです。
諸手を挙げて「めちゃくちゃ面白い!」と言いづらいのが唯一の弱点かなと思いますが、少しでも「あの時こうしていればなぁ」と思ったことがある方は、ぜひ一度観てほしいなと感じる傑作でした。
手がソーセージになるのだけは嫌だけど…。

オスカー大本命ともいわれている本作。
個人的に「トップガン マーヴェリック」に作品賞取ってほしいけれど、これはちょっと強すぎるな…。
色んな人が言ってるけど、石のシーンが最高。
すべては愛です。
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