かさま

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのかさまのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

親子の絆的映画が肌に合うことがあまりないので、楽しみな気持ち半分不安な気持ち半分で見た。結果めちゃくちゃ良くて2回見た…。
親子の絆映画はだいたい子目線で見てしまって腑に落ちないことがほとんどだったが、今作は子としての立場でリアルに感じられたところと母エブリン個人の話として自分のことのように感じられたことがあった。マルチバースの小ネタや理屈を考察したりする前に親子の愛憎映画として結構個人的な実感に沿うところが大きく、話の筋も落とし所も納得がいった。もちろんそれぞれのバースについてとか考えるのも面白い。
エブリンは確定申告もコインランドリーの経営も家族の面倒も自分が統率しようとしている。父は古い人間だし夫は頼りないし娘は"良き娘"ではないし。でもまあ大体うまく行ってない。このあたりの、活動するときは一度にいくつもこなそうとし人の話をじっと聞く最中は意識があちらこちらに行ったりする感じ、分かりすぎて身につまされた。
あんまり人生上手くいってないと思っているエブリンが特別な力を見込まれだんだん力を発揮していく…という変身譚とか成長譚みたいになっていくが、バースジャンプを飲み込み始めてからもエブリンは大体のことを間違えてる。娘がゲイになったのはジョブのせいだと言ったり、今の娘の状態は間違いだと言っている。世界を戻す、娘を助けるといった言葉にあるのは、娘が自分の望む良い娘である世界に直すという間違った考え方を含んでいる。アルファバースのエブリンがジョイを追い込み、ジョブを生んでしまったというのは、親が子を受け入れず関係が破綻することの比喩のようにも取れる。
夫に対してもエブリンは間違っている。頼りない夫に代わって物事をうまく進めようとしているが、エブリンも意識がとっちらかっていてミスもしている。夫もエブリンのうまく進められない部分をサポートしていた。エブリンにはそれが見えていなかった。
この夫の優しさに気づいたあたりから、エブリンは変わっていく。共感を持って他人を見るようになるし、完璧ではない自分についても受け入れていく。
エブリン個人の物語だったら、良かったねーなんだけど、ここで子としての私の目線が入ってくる。
自分を理解して、子供のことも理解しました、という顔をされても困る。理解されたとも思えない。積み重ねがありすぎるから、いきなりお互い優しくいられるようになるわけじゃない。結局親は、親が生きた時代に培った価値観を捨てきれるわけじゃないし、子への理想を捨てきらない。自分の理想を投影してくる親を受け入れるというのはかなりきついと思う。近くにいたら傷つけ合う。しかし捨てきることもできず、わかり合ってはいなくてもなんとかやっていくというのが、今まで見た親子映画よりは現実的な落とし所と感じた。個人的にも家族から逃げようとしたが逃げきれず捨てきれず、今は距離を保って暮らすというところに落ち着いているので、完全な和解でも完全な自立でもない結末があるんだ…ということがちょっと私の現実を肯定されているようだった。見た時期が違ってたらこうも肯定的に受け止められなかったかもしれない。タイミングが良かった。

個人的な経験に刺さりすぎたのと、やっぱりマルチバースとかディテールの読み解き要素が多いのとでなかなか感想まとまらないうちにアカデミー賞発表日である。別に個人の感想なんてまとまんなくていいだろ…とも思うが。

子供の頃グーニーズ大好きだったのでキー・ホイ・クァンが出たら泣きそう…と思っててまあ実際感激してちょっと泣いたけどキャスト全員良かったな…。ステファニー・シューすごく良かった。衣装もヘアメイクも全てキマってた。ベッキーのめっちゃいい子と付き合ってんな感すごい。設定上と低予算故に限られたキャストで回してるからか出てくる敵側の人たちにも愛着が湧く。

ペーパーカットはベネデッタの拷問に続き今年の二大悶絶シーン来ちゃったと思ったし昨年に続いて肩車を見るとは思わなかった。要素の多い映画だ。

可愛い犬ぶんまわしシーンは、動物虐待ではあるがぬいぐるみ感丸出しなのと、ジョイも一度豚連れて出てきたし動物を相棒にするバースでもあんのかな…と思ったのであまり気にならなかった。
かさま

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