ゆかちん

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのゆかちんのレビュー・感想・評価

3.4
さすがA24スタジオというのか、尖りのある作品。

おふざけ満載で奇抜やし、ぶっ飛びまくり。
小中学生レベルの下ネタと、謎の遊び心と、ゴチャゴチャアート性。
そんな奇想天外な映像や展開の中に、色んな小ネタや現代人の問題を詰め込み、核となる普遍的なテーマがある。
まさに、ベーグルに全部乗せ!

なかなか理解しにくいかもやけど、なんやろこのセンス…て思ってたら、「スイス・アーミー・マン」の監督コンビのダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)が脚本・監督なんやな。めちゃくちゃ納得したww
あと、エンドロールを見てたら、MCUでアベンジャーズIWとEGを手がけたルッソ兄弟も製作にいた。なんとまあ。



アメリカに住むエヴリン(ミシェル・ヨー)は、経営するコインランドリーが破産寸前で、ボケているのに頑固な父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)と、いつまでも反抗期が終わらない娘ジョイ(ステファニー・スー)、優しいだけで頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)に囲まれ、頭の痛い問題だらけの日々を過ごしている。
そんないっぱいっぱいの彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)から来た」という"アルファユニバース"・ウェイモンドが夫ウェイモンドに乗り移って現れる。
混乱するエヴリンは、彼に、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を言われてーーー。



マルチバース…並行世界をどう使うのかなと思ったら、別世界の自分の能力をダウンロードして闘うという仕様に。
なるほどな〜!うまいことできてる。
でも、そのダウンロードする(バース・ジャンプ)ためには、逸脱した行動…stupid…アホな行動をすることが必要という謎設定w
ギャグマンガですやんw

ひたすらドタバタして、画面がバンバン切り替わるし、サブリミナル的な瞬間映像連発、色んな世界の映像が同時並行で進んで流れる。
そしてカンフーアクションもバンバンと。
…てことで、なかなか忙しい。
どちらかといえば、アニメ見てる感覚かも。

そういうバタバタ展開の中で、不意に垣間見える人生についてのメッセージが。


↓ネタバレしながら感想↓


●人生の分岐点
「あの時ああしていれば、違う人生があったかも」…て、誰しも思うだろうし、私自身思いまくり!学生の頃から人生やり直したい笑。
そういう、色んな分岐点で違うユニバースが出来上がる。
遠く離れたユニバース…そもそもの設定が全然違う(指がソーセージのユニバースや生物が生まれなかった石ユニバース)でない限り、自分の人生の選択により分岐する結果なので、登場人物との関係性もほぼ似てくる。
エヴリンも、「もしウェイモンドと結婚しなければ」というユニバースを見ることに。
そうすると、自分は映画スターになっていて煌びやかな世界にいる。
それを見たエヴリンは、最初、ウェイモンドと結婚しなければ良かったと思う。
でも、その世界では、年月を経たとしてもウェイモンドへの想いがあり、娘が欲しかったといい、そこの後悔みたいなのがある。
どの選択をしても、「あっちは良くてこっちは後悔」みたいになるのかな…と。
だから、今の自分の選択を受け入れ、今の自分の人生を精一杯良くしようと前向きに生きるしかないのかなぁ、と。

また分岐点からのマルチバースを使うことで、「自分には何もない」「自分の人生は失敗だ」「今やることで精一杯」…そう思っている人たちに対して「いや、あなたには無限の可能性がある」とマルチバースで提示してきたように見えた。
一番失敗した人生かのようなエヴリンが、色んなバージョンの自分にアクセスすることで娘と世界を救う可能性を秘めていたとか。

色んな自分と…色んな後悔と手を繋いでいくことで、想像力を膨らませて、今の自分をより良い方へ向かわせれば良いというか。
それがオール・アット・ワンスの意味でもあるのかなと、最後に気づいた。


●虚無
ここがメインテーマなのかな。
アルファユニバース・エヴリンに強要され、バース・ジャンプを繰り返しすぎて精神が崩壊したというアルファユニバース・ジョイ。
あらゆるユニバースに行けるようになった彼女は、ジョブ・トゥパキへと変貌する。

彼女は、非常に虚無的な反出生主義に憑りつかれている。
「母はわかってくれない、誰も私をわかってくれない」という面。
「あらゆるユニバースに行けることで、人間のちっぽけさ、無価値さを感じてしまう」という面。
この辺から、虚無…ニヒリズムに陥り、「みんな消えてしまえばいい」となっていった。

確かに、絶対的なものってのはなく、何でも視点を変えれば価値あるものにも無いものにもなってしまう。
あらゆる可能性を見てしまうと、余計にそうなってしまうかも。

その結果、「みんな消えてしまえばいい」と家族どころかあらゆるユニバースを否定し、全消滅を計ることに。
こういう思考回路に陥るのは、とくにメンタル的に負の連鎖を抱えてしまった場合に起きがち。
そんなニヒリズムは解決放棄であり、自分を傷つけ、他人も傷つけていく…。

思春期!って感じもするし、色んな不幸な連鎖が起きたりしてそこに陥ることもありそう。

そして、ジョブ・トゥパキとなったジョイは、本作主役のエヴリンに対しては、復讐のためではなく「自分が愚かで小さな存在」と気づいてしまった虚無感を共有したかったために近づく。
このエヴリンは、色んなことに失敗した最悪バージョンなはずだから、この無力感や虚無感をわかってもらえるし、答えをもらえるかもしれないと考えたから。

そこで、ふと気づく。
これは、「虚無に陥った娘を母親が救う」という親子の物語を、「虚無に覆われた世界を母親が救う」というスケール広げた物語にしたものか、と。

ジョイは、本当に意味のある時間はほんのわずかしかないという。
すると、「ならそのわずかな時間を大切にしよう」とエヴリンが返す。
ジョイがこの言葉を受け入れたその瞬間、全てのユニバースが明るい方向へと進みだす。

世界のほとんどが虚無に思えても、わずかに残った意味のある面を見ることができる。
その明るい意味のある面を大事にする…自分にとって大切な人、意味のあるものを大事にする…生き方をすれば良いんだよ、ということ。


●人に優しく〜みんな闘っている〜
今作において、キーとなるのは、ウェイモンド。
もちろん、エヴリンやジョイの家族なのだから当たり前なのだけど、それ以上に、彼の人柄がキー。
基本的に情けない頼りないバージョンが多く、そうでなくてもエヴリンより影の存在のように見える。

でも、彼は彼なりに闘っていた。
虚無に陥るジョイや、忙殺されて聞く耳持てずカリカリするエヴリンに対し、ウェイモンドは、そのどうしようもない現実に対して少しでも明るく生きようとしている。
目玉つけたりするのもそこかなと。

それが、ウェイモンドなりの闘い方なんだと。
向かってくるものに対しては、傷つけるのではなく、良いところを見つけて抱きしめてあげる…。

なんて、なんて、良い人なんだ…!
こんな人が増えたら戦争なんて起きないのに…!
エヴリン、彼を離しちゃダメだよ〜!!


エヴリンに刺されても、エヴリンをかばい、「優しくしてほしい」という。
その言葉に突き動かされたエヴリンは、今まで登場してきた人物のオールスターを倒すのではなく、親切に対処することでこれを乗り切る。
その時の「あなたの闘い方を学んでいるの」というセリフが泣けた。。

情けなくみえても、何も考えてなさそうにみえても、その人はその人なりに人生において闘っている。
一見わからないからといって、そこを蔑ろにしてはならないなぁと。
だからこそ、人に優しく。
会話して、お互いを理解することが大事だなと。
相手を頭ごなしに否定するのではなく、抱きしめた上で対峙するべきというか。



●その他諸々
・移民の話
実はエブリンは、父親には広東語で話しているが、ウェイモンドには北京語で話しているとのこと。そしてジョイには中国語と英語で話しかけ、彼女は流暢な英語と下手な中国語で返事をする。
移民の世代間ギャップみたいことを表してる感じがしたな〜。

・LGBTQ
ジョイが同性愛者であることによる、家族の関係とかに現れてた。



●俳優陣
ミシェル・ヨー祭り!
色んなバージョンのミシェル・ヨー。
日々の疲れでボロボロの感じから、豪華なドレスを着てる映画スターの感じまで(映画スターのときは、ミシェル・ヨーの映像も使われてたw)、全バージョン良かった!笑。

そして、やっぱりカンフーはかっこいい!
あの看板?を回しながら闘うのもかっこいい〜。

ミシェル・ヨーじゃないけど、石の世界良かった。目がついてるのも可愛い。。
でも、最後、エヴリン石が崖を落ちるジョイ石を追いかけて落ちていくのは泣けた。。 


また、キー・ホイ・クァンが凄く良かった!
頼りない情けなさそうな夫から、キビキビしてアクションばちばちにするバージョン、そして、トニーレオンばりの憂いのある大人の男性って感じのバージョンも!
子役時代のあと、ずっと役者としては出てなかったらしいけど、なんでなん?てなった笑。20〜40代でもアクション含めて良い役出来そうやのに。
アジア系俳優の扱いのせいみたいなのがあるのかなぁ。。
今度MCUロキに出るんやんね、楽しみ!


娘ジョイ役の ステファニー・スーもよかった。どこかで観たなと思ってたら、シャンチーのとき、冒頭とラストに出てきたカップル友達か!
ミシェルヨーに負けず劣らずの七変化。
衣装が奇抜で可愛くて良かった笑。


そして、何気に国税のディアドラ役にジェイミー・リー・カーティス!
彼女の演技ヤバかったw
実は一番頑張ってんちゃうかくらいw
最近はナイブズアウトで見た記憶やけど、それまでも数々の作品に出てきた女優さんにドエライ動きさせるやんwてなったww


あとあと、エヴリンとカンフーアクションでやりあった若者に、シャンチーのときのデスディーラーの中の人したりスタントしたりしてたアンディ・リーがいた。
彼のアクション好きだなぁ。ブルースリーとか往年のカンフースターを継承しつつ、今風の動きが入ってて。

しかし、アライグマ頭に乗せるて何?て思ってたら、映画の中で言及してたレミーのおいしいレストランのパロディなんやねw

他にも、マトリックスやインディジョーンズネタなど、色々な映画オマージュというのかインスパイアがあるよう。

あと、RRRといい、肩車ブームですか?笑。



また長くなりましたが、よくまあこんだけふざけてこんなテーマぶち込んだな〜と。
でも、虚無も人生の分岐点も、誰にとってもとても身近なことで、人生を歩む上で付きものだから、すごいな〜と思った。

でも、作品賞まで取るとは!
ゆかちん

ゆかちん