柿トマト

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの柿トマトのレビュー・感想・評価

3.0
見ている間はエヴリンのパンク寸前の頭を追体験しているように感じるが、それは面白さとは言えない。

本年度アカデミー賞7部門(作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞)を制覇した話題作。こんなに圧倒的な成功は2003年の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』以来であり、まさに新しい時代を象徴するような快挙だ。

ストーリーは、アメリカでコインロッカーを営む夫婦のエヴリンとウェイモンドが、経営に苦しみながら日々を過ごしている。さらに、娘が同性愛者であり、堅物の父親も中国からやって来て介護も重なり苦しみも増える一方である。ある日、国税庁に税の申告をしていると、夫のウェイモンドの様子が豹変。なんと、並行世界(マルチバース)からやってきたことを名乗り、マルチバースの悪を倒すようにエヴリンに言い渡す。初めは戸惑いながらも、エヴリンはあらゆる世界の自分のスキルを手に入れていく。

マルチバースという、あるかもしれなかった世界にジャンプし、そのスキルを手に入れ、戦いに身を投じる主人公の姿は見ていて、やはり気持ちが良い。何より痛快であり、作品のルールも分かりやすく、前半部のこうした部分はかなり見やすかった。カンフーの世界、コックの世界など成功した世界から指がソーセージとなった人類の世界や、そもそも生物が生まれなかった世界など多岐にわたるマルチバースの移動が本作の見どころとなっている。

しかし、本作の問題点はここで、多岐にわたる世界をコンマ何秒というスピードで次から次へと目まぐるしく移り変わるシーンになってから雲行きが怪しくなってくる。まるでYouTubeのショート動画を次々にスワイプしたかのような速さの編集だ。本作は編集賞を受賞しているが、先述のように後半につれて編集が目まぐるしく、観客には負担が大きい。編集のスピード感が迫力となっていると同時に、理解しきれない場面も多く、展開が分かりにくい箇所もあった。こういう作品が作品賞をとってしまったということは、自分には映画を見るのもしんどい時代になりそうだ。
柿トマト

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