CANACO

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのCANACOのレビュー・感想・評価

3.7
追いかけようとせず、俯瞰して、振り回されてもいいと映像に身を任せたら、どこかで悟りが開けるかもしれない。激しいノンストップ多元宇宙トリップとシンプルな家族愛を描いた作品。

ジェットコースターやスプラッシュマウンテンが好きだからか、振り回されたり突き落とされたりする感覚が面白かった。

A24配給のアカデミー作品賞、主演女優賞、監督賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞受賞作品。監督・脚本は“ダニエルズ”ことダニエル・クワンとダニエル・シャイナート。

自己犠牲的に家事・コインランドリーの仕事・介護に人生を捧げる、疲れた中年女性エヴリンは、税務署で夫のウェイモンド・ワンに突如“マルチバース(多元宇宙)とアクセスできる機器”を取り付けられる。

夫と思っていた人物は、別次元のアルファバースで生きているアルファ・ウェイモンドの意識アクセス(バース・ジャンプ)により、さまざまな情報をエブリンに伝える。
意識・記憶・技能・感情とリンクできる方法を発見したのが、アルファバースにいたエブリンだったこと、その方法“バース・ジャンプ”をすぐ会得してもらいたいこと、そして、全てを吸い込むブラックホールのようなものを作っている脅威の存在・ジョブ・トゥパキと戦い、全宇宙を救ってもらいたいと。
そこから始まる、家族を想いながらバース・ジャンプとカンフーを駆使してジョブ・トゥパキと戦うエブリンの物語。

個人的には、脇役だと思っていた税務署のおばちゃんを、あそこまで引っ張ると思わなかったので新鮮。意外と脇役も大切にしている。

「A24はいつも、いかにファンを驚かせるかを考えているんです」とA24の関係者がいうように(MEN'S NON-NO WEBより)、マルチバース(多元宇宙)をめちゃくちゃ速いスピードで移動する。とにかく速い。

マルチバースの話とエブリン家の話が同時並行で進み、そこにジャッキー・チェン映画を思い出すカンフーアクションが入るので、情報量がとにかく多い。でも「人生とは選択の連続」「信じれば実現する」といった『マトリックス』風味が強く、そこにギャグ、強めの下ネタとおバカ映画のスパイスを効かせた感じでもある(性具って出していいんだ……)。140分のやりたい放題に出資するA24は肝が据わってる。

たとえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は同じ世界の過去と未来という縦軸を移動していたが、本作は同時進行している泡宇宙の横軸移動の話で、全然違う星にいるエブリンに意識アクセス(バース・ジャンプ)するという設定。なので、別の星のエブリンは指がソーセージになってたり石になってたりもする。
スピードだけでいえば、あんなにハイテンションで急展開が続く『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも、本作と比べたらISDN回線と光回線くらい違う感じ。

「あれこれお送りしましたが、今という瞬間、そして家族を大切にしましょう」という作品と解釈してみる。
終盤は「どこにいてもあなたを守りたいの」というエブリンの愛も伝わったりして、意外と(?)普遍的な落としどころをちゃんと作っていたのが、作品賞を獲れた理由かなと思う。

これまでカンフーアクション映画を見てこなかったので、ミシェル・ヨー出演の『ポリスアカデミー3』(1992)や『プロジェクトS』(1993)が見たいと思った。キー・ホイ・クァンが出ている『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)や『グーニーズ』(1985)も再鑑賞したい。

◻︎参考
MEN'S NON-NO WEB『【独占取材】「A24」関係者にインタビューを決行。ヒット連発の映画作りについて聞いてきた!』
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