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わたしの可愛い人 シェリのodyssのレビュー・感想・評価

わたしの可愛い人 シェリ(2009年製作の映画)
3.5
【中年娼婦の微妙な魅力】

こういう映画は、若い頃だったら面白いとは感じなかっただろうと思う。甲羅を経た今になって見ると、なかなか味わいがあっていいのである。

それにしても、こういう作品はやはりフランスだからできるんじゃないだろうか。いくら自分が娼婦だからって、息子のとりあえずの相手をしてくれる女として娼婦仲間を選んじゃうってのは。もっとも日本でも昔は(或いは今も?)芸能界内部ではかなり・・・だったらしいので、別段フランスに限らず花柳界の常識は一般人とは違うのかもしれないのだけれども。

この映画の見どころはいくつかあって、例えば印象派絵画を思わせる庭や花々の様子なんかも楽しめる部分。池に渡した小さな橋なんか、モネの絵そのものである。

だけどやはり最大のポイントは、もう若くないけれど女としての魅力を保持している中年女性が、若い男を相手にして(色々な意味で)一人前の男に教育しようとしながらも、同時に一人の女として相手に惚れ込んでしまい、別れをうまく乗り越えることができないというところだろう。若い男にしても、せっかく初々しい若妻を迎えたのに、中年娼婦が忘れられないのである。

この辺が、男女関係の一つの類型を示していて面白いのだ。女は男にとって母であり姉であった。男は女にとって息子であり弟であった。そうした関係は、単に男女の愛人関係ではなく、もう少し深い絆になりやすい、というか、そうである場合もあるということをこの作品は示している。

ミシェル・ファイファーが、もう数年経つと女としての魅力を失いそうな微妙な年齢の娼婦を好演している。しかし、裸を後ろからしか見せないのはいけませんね。前からも見せて下さい(笑)。

私は最初に、若い頃だったらこういう映画の面白さが分からなかっただろうと書いた。それは、ヒロインのように微妙な年齢に達した女の魅力が分からなかったからということなのである。若い頃の私は若い女しか眼中になかった(モテたという意味ではないので、誤解なきよう)。しかし今は、数年後には失われているかも知れない女の色気に、だからこその魅力を感じることがある。変な喩えだけれど、そして女性にはお叱りを受けそうだが、ある種の食品は作ってすぐより、時間がたって腐りかける直前の方がおいしかったりするのに似ている、ような気もしないでもない(笑)。

なお、フランスが舞台なのに英語をしゃべっているので若干減点。それと、語りがやや多すぎる。導入部分はやむを得ないが、結末まで語りで済ませるのはいかがなものか。
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