あか

すずめの戸締まりのあかのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

なんかまず、難しい。
だから、正直一回ではちゃんと理解しきれていないし、どんどん来る展開に着いていくのが精一杯という感じだった。
でも、普通に声だして笑っちゃう部分もあるし、結構ずっと泣いてたし、グッとくる台詞もたくさんあったし、二時間近く一瞬も飽きなかったから、エンターテイメントとしてはやっぱり最高峰なことは間違いなかった。
さすが日本を代表するクリエイター新海誠監督です。

でも一番思ったのが、想像以上に震災だった。
元々公式から「震災を想起させる演出が多数ありますのでご注意下さい」的な案内はあって、まあゆうてだろと思っていたら、結構リアルにくるものがあった。
私は大きな震災を受けたことがないのに、そんな私でも緊張したから、そういう体験が嫌な過去として残っている人には、結構しんどいものになるだろうなと思った。
それくらい、作品の根底がずっと震災で、隣り合わせで、「そんな日本を描きたい」って思いでそれを象徴するものとして描かれた「ミミズ」は作品そのものの設定の表れにもなってて、とても成功していると思った。

正直観てる間中「主題はなんだ?」「これはどう終わるんだ?」って思いながら観ていて。
というのも、あの「天気の子」と途中まで結構一緒で、世界を守るために草太が生け贄みたいな形になって、展開がひなちゃんと一緒だったもんで。
前回世界よりも大切な人を選ぶっていう正義を描いて(一生納得してないけど)、え、じゃあ今回どうするんって思ってたら、結局もとの場所にダイジンたち戻っていって、あそれでいいんだっていう拍子抜けを感じてたら、そこは今回テーマではなくて、テーマは震災のその後に生きるということ、だった。
今回一番ファンタジーなのに、今までで一番テーマがリアルっていう。
で、その終着点が個人的に軸にしてる考え方と一緒で、なんかもう全部満足してしまった。
来場者特典のインタビューに「鈴芽が救われるのは超越的な何かがあったからではなくて、震災後の12年間を彼女は普通に生きてきて、その事実が彼女自身を救うという話に出来ればいいなと考えていました」ってあって、まあもうこれが全てですという感じ。
確かにめちゃくちゃファンタジーで生死彷徨いながら壮絶な冒険してるんだけど、結局シンプルに今まで生きてきた今の自分っていうのが過去の自分を肯定して耀かせるっていう、めちゃめちゃ普遍的で身近な「生きるということ」をテーマにしてるのが良かった。
ファンタジーに振り切って描くことで、アニメーションでやる意味を持たせてるのも良かった。
あの鈴芽の胸の中にずっとあった綺麗な場所での思い出が、未来の自分との出会いだったっていうのは、本当にアニメーションファンタジーで、さらにもう文句なしの美しい思い出の風景が描ける新海作品でやる意味があって、最高だった。
壮大な冒険の中で描かれる草太への恋心もまた良い。RADWIMPSの「タナカハルカ」が観たあとだとさらに響く。
壮絶な生死の冒険ではあるけど、意外にも鈴芽の原動力は草太だったりする。劇的な理由も意味もない、ただ好きな人。
彼を救いたい守りたい、そんな人と出会える未来は、やっぱり普遍的でありきたりで。
でもあの頃の鈴芽には、もしかしたらあの日絶望を感じた人にも、想像も出来ない未来かもしれない。
でも、少なからずそれが「普通でありきたり」と言えるような今を生きているんじゃないだろうか。
それが、どれだけ救いになるか。
過去の自分にとって、どれだけの希望になるか。
昔の自分に私も、胸を張って「私はあなたの明日」と伝えられるように、精一杯生きていきたいと思った。

で、うちの松村北斗ですね。
非常に良かったあああ!いや安心したああ!
ジャニーズってだけで二割減に観られる謎風潮も、ここまでくれば文句あるまい!って個人的にはみんなに言って回りたい。
ちゃんと代々続く家業のある家の子らしい育ちの良さと、真面目過ぎるがゆえのコミカルさと、核にある死への恐怖と弱さとが出す儚さと…まあ、とにかく良かったです。
新海さんもよく言ってるけど、北斗くんの性格の良いところも悪いところもちゃんと声で表現されて、草太さんに命を吹き込んでる感じで素晴らしかった。
「もう一度草太さんの声が聞きたいっ」っていう鈴芽の台詞がちゃんと「分かる」ってみんなが疑問なくなれたであろう事が嬉しい。
鈴芽ちゃん役の菜乃花ちゃんもめちゃ上手だったなぁ。
今時の女子高生らしさと、死に対して少し達観した感じとかの塩梅が良かった。

一番泣いたのは、やっぱおばさんの本音の部分。
あの鈴芽も観客も心の底からえぐられた言葉を、「思ってたことではある。でもそれが全部じゃないよ」って言うのが号泣でした。
思ってない訳はないもんな。
でも、それが全然一部になっちゃうくらい、沢山の溢れるほどに愛情と思い出が、その全部の中には詰まってるんだろうな。
あの二人の関係性がめちゃくちゃ染みた。
RADWIMPSの「TAMAKI」がこれまた観たあとだともう…
てか、出てくる人たちの鈴芽への優しさというか愛し方というか、そういうのが素敵な世界過ぎて温まった心が。

個人的には大満足の新海作品で一番好きでした

あと小さなすずめもずっとつけてた赤二本と黄色一本のピンが途中からなくなってる。「何が一つ欠けてしまったの?」と思っていたら、最後に黄色いマフラー巻いた草太さんがいて、あーーーこれか、と。
カナタハルカの「ぼく一人の為今日まで使ってきたこの心突然君に割り込まれ大迷惑大渋滞」がここに掛かっていたのかという。一人でだって生きていけるけど、愛した誰かと一緒に生きていく、分けあって生きていくことができているすずめがいることが、最後の最後まで描かれていて嬉しかった。
あか

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