たわらさん

すずめの戸締まりのたわらさんのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
2.7
新海作品を追っていくと『秒速』までは自分の描きたいものを突き詰めて、次作『星を追う子供』からはアニメーションで観客の心に届く作品へとシフトした。その後、彼の作品に大きく影響を与えたのが11年の震災であり、思いの丈が促進され続け、本作は新海作品の集大成ともいえる。世間に受け入れられる絵柄や作風を研究しつつ、ジブリらしさに新海イズムを取り入れ現代ファンタジーへと完全に昇華される。

新海作品に共通する「喪失」を「距離」を駆使して解決いくのだが、ロードムービーを経てすずめが秘めていた喪失である黒塗りの日記は印象的である。人の営みと想い、人情を思わせる廃墟と人が随所に配置されており、各所を戸締まりしていくことで過去と現在から紡がれる未来への肯定と自己肯定は素晴らしいテーマ。

しかし、3.11を直接的に扱ったことは賛同しかねる。すずめの苦悩も3.11に起因しているのが判明するが、その苦悩を作中では扱わず視聴者に秘める物語で補填させている。「3.11を扱う=傑作」なのではなく真摯に向き合ってこそ意味があり、中途半端に史実を借りてメッセージ性を内包させても物語に説得性がないから響かないのである。勿論新海監督自身も震災を何よりも考えているのは分かるが、異様に優しすぎる人間たちやご都合過ぎる終盤といい、史実と虚構が混ざってちぐはぐしている。

一面的な人間が多い割には突如岩戸家の二面性を押し出してきて違和感が凄まじい。ダイジン探しは建前にした家出であったのだが、異様にアクティブで独り言の多い不思議ちゃん(ジブリオマージュ?)であるすずめが反転するには負の部分への共感するエピソードは乏しい。

2次元の力を超えた同一性はとても魅力的だが、メタファーで示唆してほしかったしフィクションの力で解決してほしい。『この世界の片隅に』ほどの世界を徹底しろとは言うわけではなく、色んな要素を盛り込んだせいでフィクションでも『千尋』のような共感性と『もののけ姫』のようなメッセージ性が損なわれてる。

震災を見つめ直すきっかけになり得る作品ではあるのは違いない。誰かにとってのバイブルになり得る作品かもしれないと考えると、とても素敵な作品です。

✔️ファンタジーに関して
ファンタジー作品だからといって、世界のルールがいい加減でご都合な事が多いとキャラが生きなくなる。同時にこのルールがおざなりなほど人間ドラマもおざなりな事が多く、本作はファンタジーの悪い点が如実に出ていた印象。故に後半の展開が直感的でなく、響くものも響かない。

✔️雑感
・MV映画が増えつつある中、音楽が効果的に機能していて戸締まり(物理的)の緊迫感など良かった。
・「耳すま」のワードや魔女宅、エヴァのオマージュとか散りばめられていて、そこに新海監督の宮崎駿と庵野秀明愛を感じられて見ていて面白かった。
・新海監督大好き花澤香菜と神木隆之介はキーキャラに。
・02年の『ほしのこえ』からあった新海監督お得意の精巧な背景の映像美も、この6年くらいで背景に拘った作品が台頭してきて、アニメーションの唯一性みたいのも薄れてきたのは寂しい。最後の画は最高だけどね。
・新海誠本が包み隠さず解釈を書いており、一種の解説本を映画とは関与しない部分で補完させようとするのが小賢しく感じる。視聴者に投げても良いと思うのだが、『天気の子』に対する反応や答えをすぐに求める現代人への回答なのであろう。
・色んな方面に気を遣った結果、若い子が好きそうな恋愛要素がノイズになっている。ネガティブな捉え方だが若い女性が一方的に年上男性を好きになる癖っぽいもの(おじさん脳)を感じてしまい個人的にキツい。家族関係辺りは新海監督の新境地が見れたので、そこにフィーチャーした次作を期待。
たわらさん

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