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すずめの戸締まりのhoshのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.7
災いを封じ込めた後ろ戸。女子高生すずめと閉じ師の草太が日本中の扉を閉ざしていく旅物語。
新海誠監督最新作。

良い点も悪い点も多くて書くのが難しい。ひとまず言えるのは好きな作品ということ。見終えた後の感動はとても深かった。今の自分のムードにも合っていたから観てよかったな。

『君の名は。』『天気の子』が「動」ならば本作は間違いなく「静」の作品。特徴的なモノローグやRADWIMPSのMV的な演出を排し、やや凪のトーンで現実に起きた巨大な喪失に向き合っている。ここがとても心地よかった。

また、『君の名は。』以降特に若者へ目線を向けて作品を作っていた新海誠が、今回はより明確に自分たちのような若者世代、そして自身の死後の世代までをもまなざして、明日を肯定するメッセージを残してくれたことに深く感動した。「ちゃんと見てくれているんだな」と感じるというか。色んな幅の観客が観る作品のなかで、明確にこちらに向けて言葉を投げてくれる嬉しさ、ありがたさがあったな。、

あと皆が忘れていくであろう巨大な喪失を映画という媒体を通じて語ろう、残そう、大作として多くの人に届けようという意志を強く感じられたのも胸打たれた。映像は時を越えるものだから。その力を、恐ろしさを信じているように感じる。

それから、新海誠は時代の空気感や気分を具体的なモチーフに置き換えて話を作るのが上手いと思っていて。本作の扉を閉ざす=可能性を閉ざすというコンセプトと、戻らない時間や失われた人を慈しむような展開はコロナ以降の現代のムードにドンピシャだなと。時代の無意識を具現化するようなコンセプトを毎回打ち出しているのはただただ凄いな…と。どんな発想なんだろ。

と、このように伝えたいことの大枠は誠実で素晴らしく、描かれる結論にもめちゃくちゃ感動した。が、そこに至るまでのプロセスがあまりにガタついてるから素直には乗り切れなかった。

ボーイミーツガール、ダイジン、閉じ師の設定、叔母との関係、土地の鎮魂、ロードムービー。要素が多すぎて忙しなく、どれにもしっかり浸れないまま怒涛のテンポで終盤を迎えてしまう。

特にすずめの最初の行動原理があまりにも謎、どんな人物か見えないのは痛いなと。もっと彼女の人となりを掘り下げれば、最後の展開もより切実な響きと説得力を持ったと思う。これは『天気の子』の陽菜もそうだったのよね。物語の器感が強すぎる。主人公に共感できることが良い映画の条件とは思わないけど、今作のような冒険映画でそれは痛いかなと。あと現実の災害を題材にしているのに対して軽い印象を与えかねないかな…とも。メッセージありきの作品、人物、題材選びと解釈されても仕方ないというか。他にも細かいチューニングが色々と雑に感じた。

描かれているテーマ性、監督の作品を通した思想は素晴らしく、終わりもとても好き。一方で見過ごせないようなノイズも多かった。ただ、今これを観ずして何を観るんだ?というくらい同時代性を持った強い作品なのは間違いないので色んな人の感想が読みたい、聞きたい。
『おかえりモネ』『シンエヴァ』『もののけ姫』
『ドライブ・マイ・カー』
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