キノ

すずめの戸締まりのキノのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0
(小説読了追記)ネタバレ考察(イス三本・ダイジン・左大臣・たまき)はコメント欄に
ーーーー元感想ーーーー
「賛否がある」なんて、ごまかし。本作は、傑作(賛)の災害ポ○ノ(否)。あの震災をモロに出す。前前作の災害映画は好き、NHK朝の復興ドラマも好きだが、本作は嫌い。

嫌い、でも本作は傑作。扉で人は「いってきます」か「ただいま」を言う。この呪文反復で、人はそのウチ(=住居と主)の子になっていく。それをテーマに、「お返し申す」と扉を締めるのが本作。美麗映像の中に、喪失した命と場所を描き、その両方(=ウチ)に欠けた「ただいま」を物語る。あの人の「ただいま」をもう聞けない。あの場所に「ただいま」という声はもう響かない。この叶わぬ想いを、記憶の「扉」の中に、むしろ「いってきます」側から描くことで、帰宅時の観客に「ただいま」をこだまさせた時間差の仕掛けは、大傑作。この骨格を、ガールミーツボーイのファンタジックロードムービーで肉付けし、隠し味にフェチ(サドル角触手足踏)を山盛りにする物語力は凄い。同じ「ただいま」で比べれば、「竜とそばかす〜」を本作は圧倒する。

↓(ここから酷評。不快になるので、ご注意ください)




↓(コッシー好きなんですけどね・・・)

本作は傑作、でもモロダシが嫌い。「これ見て泣いて」が下品。しかもエンタメ(怖がらせと驚かせ)目的で、あの震災を最初は隠し、ほのめかし、最後に明示する本作は、「ポルノをよく見たら身内」みたいに不快だった。なのに世間は高評価で高収益。今後濫造される災害ポルノを予感させる。例えば、ビル上の船に母の霊を乗せ想いを伝えれば・・・、その母の死の瞬間を描けば・・・、もっと簡単に瞬間的に泣ける映画が安価に作れる(本作はそうならなくて私は助かった)。泣かせ映画を泣きたい人が見て、泣く。その構造が「ポルノ」。見れば無論、私も泣く。でも、あの震災を悼む私の涙は、無力感・罪悪感や憤怒憎悪も自動的に含んでしまう。だから大嫌いになる。規制解禁の歴史をポルノは持つが、今回「すずめ〜」は私の嫌いなものを解禁した。

というわけで私の感想は、災害ポルノの傑作。「被災者がみたら・・・」などの感想があるが、私は思慮するのはそこじゃなく、毎年の追悼で自分の中に鎮座している無関係の死者達。「タブー視」でもない。遺族が立ち直り、町が復興するドラマは、私は好きだ。趣向の問題で、モロダシ復興ポルノなら大歓迎だった。

でも、評価は星5。「竜とそばかす〜」同様に本作も、脚本を妄想補完してたら、感動して泣いた。
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