なお

すずめの戸締まりのなおのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

"お返ししまぁぁぁぁぁぁす!!!"

もうこの副題だけでこのレビューで書きたいことの9割は終わった。

という冗談はさておき、今秋公開の話題作をようやく鑑賞。
話題性はやはり高く、自分が訪れた劇場はほぼ満席状態。
(自分が座席予約をしようとした時点で空席が2席しかなかった)

『君の名は。』が彗星の衝突、『天気の子』が晴れと雨という人の力ではどうやっても防ぐことができない「厄災」のひとつである「地震」を描く、新海誠監督の最新作。

✏️渡りに船
ストーリーの流れ自体は、昨年公開の細田守監督作品『竜とそばかすの姫』でも指摘されていた、渡りに船的、悪く言えばご都合主義的展開が満載。

まるでロールプレイングゲームよろしく、とある地点にたどり着くとイベントが発生し、主人公の女子高生・すずめの窮地を救ってくれる人物が登場。
またそれらの人物全員がまるで聖人の如くすずめに対してほとんど無償の奉仕を行い、すずめの旅をバックアップ。

これだけ聞くと本作の評価も『竜とそばかすの姫』と同等のものになってしまいそうなものだが、『竜とそばかすの姫』が「美女と野獣」を二番煎じ…もといオマージュしたような作風だったのに対し、本作では更に骨太で、ともすれば取り扱いには細心の注意が必要なテーマを題材としている。

その差が、本作の評価を大きく上向かせてくれた要因となったことは間違いない。

✏️3.11
災害大国ニッポン。
国土のおよそ8割を山々が占め、四方を海に囲まれた我が国にはいつの時代も「災害」が付きまとってきた。

前述の通り、本作では「地震」をテーマとして扱う。
本作にはすずめが日本各地を転々とするロードムービー的要素もあるが、劇中で描写されたすずめが訪れる地域には、かつて歴史に残る大地震が発生している。

すずめのスタート地点である九州には、記憶に新しいところで2016年4月の「熊本地震」。
すずめがスナックのママにお世話になった神戸には1995年1月に「阪神淡路大震災」。
物語の大きな転換点となる東京では、約100年前の1923年9月に「関東大震災」。
そして旅の終着点でありすずめの生まれ故郷である東北には---2011年3月の「東日本大震災」。

自分自身、震災当時は高校生で、かつ現地で被災した。
幸い沿岸部の住まいではなかったため津波の被害は受けなかったが、それでもすずめが幼少期に記した日記のあのページは目に焼き付いてしまう。

津波が人家に押し寄せるような直接的な表現が劇中で描写されることはないが、津波の惨たらしさや悲惨さを表す技法としては自分の心に深く突き刺さった。

本作鑑賞の際の注意点として、
「地震描写および緊急地震速報の警報音が流れるシーンが存在する」ことが喚起されていた。
たしかに本作には、震災に対してトラウマを持つ人が「心にかけた錠前」をも解放しかねない迫真さが存在したと思う。

「後ろ戸」から現世に現れ大地震を引き起こす「ミミズ」と、その登場を食い止めるため先祖代々から続く「閉じ師」を受け継ぐ草太とすずめ。

地震の原因とは言うまでもなく巨大ミミズの仕業でも呪いでもなくれっきとした自然現象なワケだが、「もしかしたらそうなのかも」と思わせるファンタジー要素と、リアリティのある震災の描写が見事に融合している。

☑️まとめ
自分が訪れた劇場はほぼ満員だったということは既に述べたが、中には本作で大きく取り扱われている「3.11」をリアルタイムでは知らないだろうという年ごろの子どももいた。

過去の災害を未来へ受け継ぐ手段。
当時を知る語り部から話を聞く。
リアリティを追求したドラマを作る。
震災を経験した人を追うドキュメンタリーを作る。

そんな数多ある手段のひとつに、本作のような「アニメ」があってもよいのではないか。
そのような一石を投じるという意味合いにおいても、本作の功績はかなり大きい。

🎬2022年鑑賞数:110(51)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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