リプリー

すずめの戸締まりのリプリーのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.9
子ども、家族連れ普段映画館に行かないであろうカップルから、僕みたいな何かやたら話題になってるし見に行くか(やれやれ)みたいに思う映画好きまで、こんなにも射程圏内の広い映画はなかなかない。とはいえ、映画館をジャックし過ぎ問題にはモヤモヤしていて、僕が行った地元のシネコンも3〜4のスクリーンが本作で占めていた(その大半が残少または完売なのでぐうの音も出ないが)。まあその辺はこういう映画のお陰で映画館の経営が成り立っているのだと我慢しよう。

どうでもいい前置きが長くなった。
所感を言うと「君の名は」からの作品と比較して、ものすごく好きなところが多かった一方で、今までで一番のお話的にモヤモヤした(理解できない)部分が多かった、という感じ。

まず、好きなところ。
アニメの作画クオリティが素人目に見ても猛烈に高いのは言わずもがな。太陽、雨、風、揺れる大地といった自然描写をスクリーンで見れるだけで眼福。
「お返し申す!」「お返しします!」扉を閉じるシーンで言うこの決めゼリフがカッコよく(オープニングタイトルの効果も相まって)つい真似したくなる。ファミリームービーとしてもこれは大きいし、新海誠作品でこういうかっこよさがあるのはとても好感を持てる。
脚が3本の椅子とのドタバタもいい。ミカンを落とすくだりで、椅子がコテンとなるタイミングを始めギャグセンスの間合いが的確。劇場でも自然と笑いが起きていた。
最初はあれ?このパターンの繰り返し?と首を傾げたが、遊園地という舞台建てを生かしたアクションはアニメにしかできない荒唐無稽さがあって大変楽しかった。
中盤、すずめが着替えるシーンは文字通り覚悟を決めている感じの演出もされていて素直にアガる。
涙腺を刺激された箇所もあり、すずめの育ての親が本音を吐露するシーン、そこからの和解。そして、クライマックス。すずめがある人物に声を掛けるシーンには、震災をはじめとし大切な人の喪失への向き合い方として至極真っ当なことを描いていると思うし、今は絶望しか見えないが、愛し、愛されてここまでやってきたてはないか、という人類讃歌にもとれた。

が、しかしである。
ぐっときた第三幕は一番のよく分からないポイントでもある。
そもそもあのダイジンは何をしたかったのか。途中参戦した左大臣とやらは?
結局主人公・すずめがトラウマを克服しただけ、ということ? 3.11を描くのはいいが物語的にはえらくこじんまりとした印象を受ける。
良かったところに挙げた、育ての親との和解も、すずめが着替える(=生まれ変わる)手前で処理すべきではないだろうか。というか、説明もロクにされてないのに納得する要素はあったのか。
中盤までのロードムービーも都合よくいい人に出会いすぎ。子ども向け映画なのでそれはいいにしても、じゃあ何も東京の人々を露悪的に描き過ぎでは?とは思う。
泣けるには泣けたが、それは災害という悲劇に対してであって、物語的な深みと直結していないのは残念。
これ見がよしのジブリオマージュもなんだかなぁ。そもそも「けんかをやめて」は、親子のケンカの話ではないわけだし、選曲が安易ではないか。

そんなこんなで文句はある。
でも見ている間退屈はしなかったし、先述したとおり、好きな部分が好き過ぎるので、なかなかの良作だと感じた。