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すずめの戸締まりのMondeFilmのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.7
 映像描写が頭抜けているのでそれだけでも見る価値がある。とはいえロードムービーを作りたいパフォーマティブな欲求がコンスタティブな設定としてわかりやすく表出してしまっている印象。アトラクション映画。しかし異常を描くには現実的すぎる。ミミズが何か、主人公がどうして常世を見るのか、バックボーンへどうしても疑問が先立つ。後述には注意しなければならない。注意を惹きつける推進力とならない不可解。こういうパターンはロロノア・ゾロの斬撃が飛ぶ理由と比較できるかもしれない。三刀流で強くなる仕組みも斬撃が飛ぶメカニズムもよくわからないが、あの世界観で努力すればできそうという納得感がある。そういう一応の説明もない本作。ファンタジーと現実社会の要素が互いに拒否反応を起こしている。残念。あと今回は野田洋次郎があまり前面に出てこない。タイトルと同時に流れる曲も似非日本みたいな音楽だし。
 「君の名は」も「天気の子」も日本の神秘的な部分が題材として扱われていたが、人間の上位存在をあまり描いてしまうと、結局人にできることは特にないということになる。というかあんまり関与しない方が良い結果を生みそう。そうした存在に対峙するために複雑な家庭環境を冒頭で吐露させておけばよかったと思う。死を厭わず神に立ち向かう少女としてのディティールが不足していたから疑問が残る。一般の女子高生ではとても無理そう。まあアニメ見といてリアリティ云々言うのも違うのか。
 映画見た後酒飲んで書いているので、あんまり思い出せない。事前のインタビューで『君の名は』において、今なら乳を揉ませないみたいな話があったが、この作品では丁寧に男性を取り除いている印象があった。イケメンで、椅子でなければならず、立教大学で教職員を目指していなければならなかった。元来汚れている(?)男性をクリーンにするために。ロードムービーでうら若き男女が寝食をともにすることはもはや不可能だ。正しくないらしい。母の死に比して父親に関しては触れられない。それはそれとして、椅子が快活に動き回る様子は素晴らしい。アニメーション体験として楽しかった。ジブリに向かいたいのかもしれないが、もう一回くらい秒速みたいな作品も見たい。
 出生数最低のニュースが流れてきたが、それこそ新海誠みたいないわゆるセカイ系の意識が蔓延しているのか?キミとボクのいるセカイさえあればいい、社会の維持を重視するコンセンサスがないので、最上の恋愛関係を目指して突っ走る。この映画がロマンスならばミクロな適応策に終始してしまっている気もする。目の前のことしか考えられない。ひとりの人生。一方で、椅子でもある程度一緒にいればキスできるくらいには愛着が湧くらしい。お見合いするンゴねえ。
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