襟

すずめの戸締まりの襟のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
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よく知らないものに対して思ったことを外に出すのに躊躇いを感じるようになったのはいつからだろうか。私にはその最初のきっかけが震災だったように思える。この作品を観た後に考察どころか感想さえ書くのが怖いと感じた。そう感じさせる力が作り手にあったと思う。
新海監督の長編二作品に対しては絵の力を強く感じたが、今作では脚本と演出の力を一際強く感じた。それは題材だけではなく、氏とそのチームが命を懸けて作品を作り上げ観客の反応に真摯に向き合うというプロセスを繰り返し積み上げてきたからに他ならないと感じた。
元々観客がその瞬間に欲しがっているものを画面に映す才能は他の追随を許さなかったが、今作ではストーリー構成やひとつひとつの台詞にまで"このタイミングに私がアニメーション映画に求めるもの"があった。

すべてではないけれど少なからず先の震災を題材に取っていることに、公開前は不安を覚えていた。多くの人が見るとわかっているから、観客にとってアニメーションが浅慮なものという印象に変わってしまうという恐怖があった。スタッフの方々は数年にわたりその問題に向き合い数え切れない苦悩や課題を乗り越えてきただろう。
あの時警報音と映像にただ衝撃を受けているだけだった私が、こうして繋がれていく記憶の尊さを知っている。遺し方の新しい形を教わった。

観る視点を変えて、見る角度を変えて、何度も観たい作品
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