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すずめの戸締まりのtamashiiのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.2
死を恐れぬ少女が変なイケメンに捕まり方々旅して保護者が心配する映画。

新海誠はアニメ映画監督として本当に上手になってきた(誰目線)。脚本もそつがなく、ロードムービー的展開を盛り込んで美麗な風景を満足いくまで見せてくれたり、和風ファンタジー要素でマスコットキャラを入れ込んだり物語を盛り上げるなど技術的にうまい。自然災害を悼むというテーマや時間の仕掛けは君の名はを思わせるし、世界のための少数の犠牲者というテーマは天気の子を思わせるので、新海誠の集大成というのもわかる。

ただ、全体的にそつなく上手くなるにつれて、作家性はどんどん削がれてきているような気がする。この監督は何に強く揺り動かされて作品をつくっているのだろうか。例えば秒速は苦い初恋を拗らせていたが、あれはカッコ悪くてもマジだったからこそ他の作品にはない良さがあった。真剣に何かに向き合い問い直すと、気持ち悪さが出たり、誰もにウケる作品にはきっとならない。だけど、そういう作品を深く好きになれるコアなファンは、小綺麗にまとまった作品では満足できない。

今作で無くなってしまった過去作の演出で、PVのように歌に任せて詳細な描写を省くというのがあったが、アニメ映画的にはけっこう違和感があるにせよ、新海誠らしさがあった。らしさが削られていくことで、大人になったかもしれないが、つまらない大人の一人になってしまったら、まだ大人になりきれない私からすると少し寂しい。国民的監督という路線をやめて欲しいと思うめんどくさいファンである。

おかえり上映版はラストがちょっと違うとのこと。でも、これは明らかにファンサービスであって、作品的にはオリジナルの方が良さそうな気がした。
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