ふせん

すずめの戸締まりのふせんのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
2.8
日々増えていく行方不明者や錯綜する原発関連情報を怯えながら、でも観ることをやめられなかった当時のことを思い出しました。遠い地で情報を浴びていただけの私でもこの作品の鑑賞はつらかった。でもきっとこれは後世の為に必要な作品だと思う。

新海監督の作品は苦手なのだが、3.11をエンタメとして残すことは大きな意味があると思った。3.11はあの頃を生きていた日本に住む人たちの人生や価値観を否応なしに変えた。今、現在この瞬間の日常はそうやって変えられてしまった人たちの営みで成り立っている。幼い子たちや、これからの世代はきっとそれを認識出来ないだろう。沢山の物事がそうやって成り立ちを忘れられながらも、先人の知恵や教訓として残ってきたのだと思う。私自身もそうやって生きてきたのだろう。こんな事を考えさせてくれる作品が存在することは、好き嫌いを超えて意味がある思う。

ストーリーの感想としては、要石であるダイジンの扱いが終始かわいそうで主人公の恋愛どころではなかった。
草太が要石にされたということは先代のダイジンも人間であると考えられる。しかも対になる要石のサダイジンとダイジンの体格差やダイジンを大事そうに毛繕いする様子は母子を想像させる。草太の両親や祖母についての言及はなかったが、少なくとも閉じ師に近しい者である可能性は高いのではないか。

人柱といえば、天気の子が連想される。あの作品では結果的に世界より個人の人生をとったのだから、本作はその逆ということだ。

叔母の「うちの子にならないか」という言葉を拠り所にしたはずの鈴芽が同じ言葉に縋ったダイジンを蔑ろにしているの、鈴芽自身はどうやって消化しているのだろうか。私は自分を納得させる解釈がまだ出来ないでいる。

「君の名は。」以降の新海作品は出会いから両思いになるまでの恋愛を物語の軸にしていたように思うが、似た感情遷移に食傷気味になってきたので恋愛物じゃない作品を観てみたいという思いが強くなってきた。
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