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すずめの戸締まりのykのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.8
鈴芽を引き取って育ててきた叔母が、思わず負の感情をぶちまけてしまい、後悔に襲われるシーン。
心の底では分かっていても、現実を受け入れきれずに母を探す幼い鈴芽の姿。

溢れる人間味に感情が揺さぶられる瞬間がいくつもあった中で、特に印象に残ったのは、被災地を見下ろす丘の上で言った芹澤の言葉と、それに対する鈴芽の反応だった。


「このへんって、こんなに綺麗な場所だったんだな」

「え、綺麗?ここが?」



仙台の震災遺構となった小学校を訪れたときのことを思い出した。
あたりはほとんどが何もない砂地で、吹き荒れる雨風が余計に冷たく感じた。

震災前の街の姿や、震災の日の上空からの映像を見た時、
今は何もないように見えるその土地に、どれだけの人々が積み重ねてきた生活があったのかと想像し、それがたった1日で消えたのだと知って、心臓が凍るような思いがした。


時と共に街は復興していく。
荒れた土地にも草木が生え、多くの人々の記憶から、かつての街の姿や震災の記憶は消えていく。
でも、その過程の同じ時の中を、震災によって癒えない傷を負った人たちも生きていく。

到底太刀打ちできない自然の脅威を目の当たりにしたとき、映画に描かれていたような神の気配を見るのかもしれないけれど、
たしかにそこにあった人々の営みから、目を逸らしたくはないと思った。
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