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オオカミとライオンのLCのレビュー・感想・評価

オオカミとライオン(2021年製作の映画)
4.1
面白かった。

実在する1匹のオオカミと1匹のライオンにまつわる物語。
どの子もとても頑張るけれど、みんな無事です。

緑深い湖のそばにある祖父の家に、孫である主人公が住むことになる。
その家には、祖父が生前交流していたオオカミさんがよく訪れるらしい。
ある日、アフリカからサーカスの為に小さなライオンを運ぶ飛行機が不時着する。ライオンさんは幸運にも木の上の鳥の巣に落ち着くのだけれど、親鳥に追い出される形で落ちてしまう。主人公は腕の中に落ちてきた命を家に連れて帰るが、人の罠によって安全に子育て出来ない祖父の友も同時期に身を寄せる。
主人公は当初、保護局の人に任せようと思うのだけれど、ライオンさんのことをサーカスが探していると聞いて考えを変える。
彼女は祖父の考え方を知っていたし、自分も、酷い扱いを受けるとわかっていて小さな命を引き渡すのが嫌だったわけだけれど、内心では「私の判断は自然界にとって、オオカミやライオンにとって、正しいことだろうか」と考えていたことが、最後の台詞でもわかる。

最初は祖父の友が子どもたちを育ててくれていたのだけれど、ある日を境に姿を見せなくなってしまう。人に捕まったのである。
家から出てもまだ自力では生きていけない存在となった2匹を、彼女は自らの手で育て始める。
そんな彼女に色々な障害が立ちはだかって、とうとう引き離されてしまうのだけれど、主人公は決して投げ出さなかった。
これがとても印象的で、「かわいい」「かわいそう」という気持ちによって安易に命を引き受けたようにも受け取れる彼女に、責任感や母親としての愛を垣間見ることができるのも事実だ。

人の手によって棲家を追われ、人の手によって共に生きてきた兄弟とも引き離された。
自力で生きることのできなかった頃の2匹にとって、悲劇から守り抜く姿勢を見せてくれたのは、主人公だけだ。
そんな2匹が、お互いを見つけ、支え合いながら、時にじゃれつきながら、育った家を目指す。食べ物を見つけ、銃口から庇い合い、全員がやっと安心できる家で揃う場面は、とてもホッとするものだった。
せめて2匹の友情や、その家で彼女と過ごしたいという思いを、また人の手によって粉々にしない未来を望んでしまう。

本来なら、共生しない者たちだった。
彼らがそこにいるのは、人の手によってもたらされたものだ。
主人公とオオカミさんを安全に行かせる為に、自ら銃口の待ち受けるところへ向かうライオンさんの姿を、どう受け止めるか。
他の狼と暮らしていたオオカミさんが、ライオンを選んだ姿を、どう受け止める。
野生なら、人なら、自然なら、こうせねばならない。それは、彼らの気持ちを理解して尚優先されることなのか。

研究が進めば数を増やせるのも事実だし、然るべき施設で管理されてない動物が危険なのも事実だし、人に慣れてしまったら不都合がたくさんあるのも事実だ。
だけれど、ではオオカミさんやライオンさんが、親や故郷から引き離された原因はやはり、人なのである。その上銃で撃たれたり鞭で打たれたりするのだ。
そんな存在がそもそも生まれないように。主人公の奏でる旋律はきっと、動物だけではなく、これからを考える人の為にも響くのだろうと思う。
人の手で彼らの生きる道は歪んだのだ、これ以上その道を破壊しないことくらい、できるのではないか。

それにしても、本当によくカメラに収めていると思う。
オオカミさんはやんちゃで、ライオンさんはおとなしい。じゃれる時はちゃんとお互いに甘噛みしたり、追いかけたり、寄り添って眠ったり、ひとつひとつの動きや息遣いが丁寧に観察できる。活き活きとた躍動を感じられる。
小さい時は本当に小さいのだけれど、大きくなると本当に大きくてびっくりするね。
投げ出さずに、預かった命に責任を持ち続けてくれた主人公には、頭が下がる。
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