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生きる LIVINGのlololoのネタバレレビュー・内容・結末

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ビル・ナイ、ありがとう…。ずっとビル・ナイの映画だった。居なくても存在を感じる、そんな物語。
“偏屈で余命僅かな英国紳士”を演じさせたら現時点では右に出る者がいないであろう、ビル・ナイのさりげない熱演に引き込まれた。ビル・ナイがあんなに歌がうまいとは知らなくて結構びっくりした。

また、ビル・ナイを中心としたキャストの「台詞ではない演技」がとても良かった。気まずい駅のホーム、車内、ボスが居ない時の少し緩んだ職場の雰囲気…。

ナショナルシアターライブで大好きなオリヴァー・クリスが出ててびっくりした。最初オーラがなくて気づかなかったけど、段々と「あれオリヴァー・クリスじゃない…?」ってなってびっくりした。舞台より映画は演技がスクリーンサイズになるので、気づかなかったのかな。びっくり。

正直、お話はみんなの(もしかしたら中高年の)理想をグロテスクなまでに美しく描いた感じだった。原作通りなのか、リメイクされた結果なのかはわからないけど…。

・職務怠慢でも成り立つ仕事、部下に恐れられているけど嫌われてはいない
・可愛い若い職場な女の子(しかし転職するので会ってることは職場の面々にはバレない)と仕事サボって遊ぶ
・息子の嫁は嫌な感じだが料理は作ってくれる
・悪い噂は(多分)自分の耳に入ってこない
・無断欠勤数ヶ月しても席はあるし、いきなり職場に現れて仕事バリバリやり出してもみんな着いて来てくれる
・そして仕事は成功して名は残らないがみんなの心には残る
・死にたい場所で歌いながら綺麗に死ぬ
・お葬式では泣いてくれる人がいる

まさに、こんな風に死にたいという理想。そして人は死ぬと実感するまで頑張れない。なんて皮肉…。人生終わりよければすべてよしとは言うけど、なんだかなぁ…。
『最高の人生のつくり方』みたいな、踏ん切りがつかなくてできなかったことをやるっていうのと、「職務怠慢でやらなかったことを気が向いたからやる」はだいぶ違うのでは…?それが気になって、正直手放しで応援出来る感じではなかったな…。
自分はこれまで、「高齢者がさいごに一花咲かせる系」の映画が好きで幾つも見て来たけど、あれらはその行為に至る彼らの動機に納得がいく、上手く出来た映画だったんだなと思った。

私自身が自分の父親が癌だったのを知らなかった経験があったので、家族にも職場にも報・連・相しない主人公に少し腹が立った。
こう言っては何だけれど、壁打ちで余命を告げる練習を何度したところで、口にしなければ息子への思いは息子に伝わらないしな…とか思った。
いっそのこと、一思いにどこかへパァンと出かけられたらよかったけど、そう出来ないのが人間らしさを感じる。
その妙なリアルさと、グロテスクな理想が一緒になってるからどうにも腑に落ちない。

色々思うところはあるけど、ビル・ナイ主演の映画をリアタイできて本当に良かった。私もビル・ナイになってフォートム&メイソンでランチしたい…。
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