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生きる LIVINGのIDEAコメント休止中のレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.7
人生の終わりが迫るその時
心に降り積もった雪の下に
小さな火が灯る

蝋燭から蝋燭へ火が移るように
小さかった火はやがてまばゆい光を放つ

人生とは情熱だ。
大切なものは目に見えなくてもいい
私がいなくなっても
いつまでもそこに在り続けるもの

あなたに私の命の温度は伝わっただろうか。



人生の最後に観る映画に今作を選んでも良いのではないかと本気で思った。

それはもちろんビル・ナイの熟達した名演によるものであり、またカズオ・イシグロの美しい脚本の賜物である。
ヒューマンドラマなら人々の人生・つながりをもっと時間をかけて掘り下げる作品が多いであろうが、今作はたった102分。
役者の素晴らしい演技と演技の行間を観客に読ませるこの構成、それは日本文化にある引き算の美学のようにも感じられ、美しく佇む日本庭園のような無駄のなさに心が凪ぐ。

ビル・ナイが病を告げられ、そして情熱を取り戻すまでの表情の移り変わりはもちろん素晴らしかったが、イチ押ししたいのはビル・ナイ演じる課長の元部下であるマーガレットだ。
天真爛漫で情熱にあふれ人生を存分に生きている。それを体現する演技をやり通したマーガレット役のエイミー・ルー・ウッドの豊かな表現力に感嘆した。

作品を通して、偉業を成すことが価値ある人生なのではなく、何かに情熱を注ぎ誰かのために懸命に生きることこそが人生なのだと言っているようで、それは万国共通の普遍的な価値観だからこそ今回のリメイクがこんなにもしっくりときた理由だと思う。

皆さまにもぜひ見ていただきたい傑作。