社会のダストダス

生きる LIVINGの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.8
最後を知り、人生が輝く。 はあー、余韻…。これはめっちゃくちゃ良かった。

原作、黒澤明監督の『生きる』は未鑑賞。黒沢監督の作品は前々から観てみたかったが、どれから先に観たものかと迷っていた。オリジナル版が140分越えなのに対し本作は102分と40分も短尺で、要約版としても入り易い作品なのかなと思った。

社会の歯車として働き続けた男の最期の衝動、生きることなく死んでいくことへの恐怖。私も社会のゴミみたいな名前でレビューを書いている身として、ひとつ身に積まされる思いだった。

お役所の公務員ウィリアムを演じるビル・ナイ、医者から癌であることを宣告され自分の人生を見つめ直し終活を暗中模索する。最近だと『Emma エマ』でのひょうきんなお父さんが印象的だったビル・ナイ、本作では抑え目な言葉遣いや所作、間の演技に引き込まれた。しかし、オスカーにノミネートされたビル・ナイのワンマンショーという訳でも無くて、脇を固めるキャストも凄く良かった。

『セックス・エデュケーション』のエミリー・ルー・ウッド演じるマーガレットはバイタリティに溢れた明るさでウィリアムとの対比になる。マーガレットにゾンビと言われるウィリアムだけど、1950年代でゾンビが有名な作品て何があったかな。ミイラとかフランケンシュタイン呼ばわりしてもそれはそれで失礼だけど。

アレックス・シャープは新人職員の役で相変わらずそんなにシャープな印象はないが、語り部の役でウィリアムから未来を託される、自分のようになる前に考えろという警告ともとれるか。本作の演技が良かったので『パーティーで女の子に話しかけるには』でエル・ファニングとイチャイチャしたことに対する罪は減刑しようと思う。

自分は半年で死ぬ予定はないけど、自分も最近仕事上でひとつのささやかな決断をしたのもあり、彼がたらい回しにされていた公園整備に残りの余生をかける哀愁と情熱が同居する姿に目頭が熱くなった。

1950年代が舞台で演じているビル・ナイは70代なので、当時なら病気じゃなくても普通に天寿を全うしたことになる気がしないでもない、とかいったら元も子もないか。