九月

生きる LIVINGの九月のレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.8
静かに染み入る良い作品だった。カズオ・イシグロの脚本と、主演のビル・ナイがとても良かった。最近疲弊気味だったけれど、心の落ち着きを取り戻せた気がした。

あらすじだけを見れば、そんな風に生きられたら…と思ってしまうけど、ウィリアムズの実直な人柄をベースに、生きるとは何かということが描かれていて、押し付けがましくない素朴さがとても好きだった。ただ仕事をこなし無意識的に過ごしてしまっていた毎日を、立ち止まって今一度見つめ直したくなる。
自分の人生は自分のものでしかなく、死を背後に感じ始めたからと言って自分自身が何か劇的に変わる訳ではないということを感じられたのも良かった。
息子に対して病気のことを伝えなかったのは残酷な気もしたが、ウィリアムズの子どもではあるものの彼には彼の人生があり、それを慮るシーンが印象に残る。

自分が余命を宣告されたらどんな気持ちになるのだろう…と何度か考えたことがあるが、未だに全く想像がつかない。昨日までの自分と何ら変わりのないはずなのに、今までどうやって過ごしていたか分からなくなって日常から彩りが消えていくのだろうか。誰にでも訪れるいつか、が近づいたからといってやり残したことを思い出したり後悔したりしないように日々を過ごしたいもの。
イギリスの風景や、何気ない撮影も全てとても良くて、役所のお堅いイメージに沿うような手堅いストーリーの進み方も気に入った。
九月

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