CANACO

生きる LIVINGのCANACOのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.7
飛行機の中で鑑賞。2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロによる脚本。監督はオリバー・ハーマヌス。黒澤明『生きる』のリメイク。

NHKや日本テレビがテレビ放送を開始した1953年、その年のロンドンが舞台になっている。黒澤版オリジナルが公開されたのは1952年。

黒澤版のプロットを忠実に踏襲しつつも、昭和らしい人間臭さ・泥臭さ、黒澤ダイナミズムを、静かな英国調に仕立てた印象。オリバー・ハーマヌスという監督さんを知らないのだが、映像が美しく、見ていて心地よかった。クラシックな服や小物、内装も素敵。英国クラシックが好きな人にはぜひ見てほしい。

自分的にはこのリメイクに違和感はなく、静穏な雰囲気に好感をもった。小田切とよ役にあたるマーガレットなど配役も絶妙だなと思う。
志村喬さんが演じた渡邊が、目で後悔や焦燥感を語っていたのに対して、ビル・ナイ演じるウィリアムは諦念が滲み出ている。どちらも切ないのだが、ウィリアムはTHE英国紳士で、洒落がわかる感じもあり、すき。

微妙な父と息子の関係も端折らずおさえていて、追加されているシーンもあった。黒澤版『生きる』がよいと思う部分のひとつは、悲劇を安易に感動物に塗り替えないところ、たとえば「お父さん、ごめんなさい!」と泣き叫ぶようなシーンがないところ。本作もそこが守られているのがよかった。

イギリス版“たらい回し”が見られるのもなんだか面白い。オリジナル版を大事に扱った良作だと思う。
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