コータ

生きる LIVINGのコータのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.3
オープニングから、クラシック映画さながらのタイトル演出に心掴まれる。

50年代・ロンドンを映したショットのフィルムは、当時のカラー映画のそれを思わせる。粒子の荒い質感と鮮やかな色彩。
スタンダードサイズのアスペクト比も、バックに流れる音楽も、どれもまさにクラシカルな作りだ。

余白を多く残した画面作りが、本作の抑制の効いた、落ち着いたトーンを支えていた。
主人公の端正な佇まいや、陰影の濃い映像、よくできた美術・衣装からは、黒澤版以上に映画として洗練された印象を受ける。

息子に病気のことを打ち明けようと練習するウィリアムズを鏡越しに映してみせる演出には痺れた。
役所で各部署をたらい回しにされるシーンで用いられたワイプの場面転換は、黒澤へのリスペクトに他ならない。

全体的にオリジナル版への深いリスペクトを感じさせる内容でありながらも、より上品で落ち着いた印象を受けるのは、舞台がロンドンに移ったせいもあるだろう。

通夜の席での陰湿な悪口大会は描かれなかったし、主人公のあだ名は「ミイラ」から「ゾンビ」に。

また、志村喬の鬼気迫る歌唱が印象的だった『ゴンドラの唄』は、スコットランド民謡『ナナカマドの木』に変更されている。
ビル・ナイの歌唱はどこか優雅の漂う、感情の抑制された、いかにも英国紳士風のものだった。

「♪幹に刻まれた たくさんの名
もはや会うこともできぬ人々よ
私の胸に刻まれた懐かしき人々よ」
コータ

コータ