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生きる LIVINGのvioletのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.5

朗らかに、そして堅実に 「生きる」
🇬🇧

プロットの派手さはない分、音楽とシネマトグラフィーで魅せる映画でした。1950年代の雰囲気を出すために工夫されたアス比、彩度と露出を抑えた編集がなんとも印象的。ロンドンを映したオープニングのタイトルシークエンスなんてもう最高に好きだ… 黒澤明のオリジナル版も気になる。


人生の楽しみ方を忘れちゃってるウィリアムズ。
趣味もなければ仕事も雑にこなしてるから、生きがいも達成感も得られず、人生がつまらないものになってしまっている。映画においても現実においても、こんなふうに人の心がすっかり枯れてしまうケースは、妻に先立たれた高齢男性に多いような気がする(私の祖父もそう)

ひどいあだ名を「気に入った」と笑って受け入れたり、自分より30歳以上も若い部下の生き方に憧れを抱いたり、余命宣告の話をする際に「大した話じゃないが…」という前置きを付け加えずにはいられなかったり、労力をかけて成し遂げた仕事を「ごく小さな出来事」と説明したり…

彼はどこまでも腰が低くて謙虚な"紳士"だと思った。下心が微塵もないからこそ、気まずい雰囲気を察せなくて、マーガレットをしつこく誘っちゃうくだりも面白い。

とにかくビルナイめっちゃいいな………
優しく微笑むビルナイ、挙動がゆっくりなビルナイ、か細い声を喉から絞り出すようにして話すビルナイ、アーケードゲームで無邪気に遊ぶビルナイ…… 特に歌うビルナイが良すぎた。毎晩枕元にビルナイを召喚してスコットランド民謡を歌わせたい。不眠症も治りそう。
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