回想シーンでご飯3杯いける

生きる LIVINGの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.5
黒澤明による1952年の名作が、イギリスの名優ビル・ナイ主演、カズオ・イシグロ脚本によってリメイク。

アナログ感溢れる映像やクレジットのフォント使い、1950年代を再現するロンドンの風景等、過去作品のリメイクである事を意識した作りで、実際黒澤版に忠実なリメイクになっている。あくまでストーリーを追う限りでは。

市役所の市民課長である主人公を描いた作品で、所謂お役所仕事の毎日で生き甲斐を見失った彼が、癌の発覚によって人生を見直す物語である。

しかし、僕が考える黒澤版「生きる」の魅力は、葬式会場での同僚や関係者の会話から主人公の人となりを炙り出す手法の部分にあった。本人不在でも人物描写をここまで豊かに表現できるのかという驚きがあった。

それが今回のリメイクではほぼ全てカットされ、通勤電車内での同僚達の会話で軽く触れられる程度になっている。結果、尺は40分短くなり、取っつきやすくなったとは思うが、最も大事な部分を抜き取ったような物足りなさがある。

市民課の若手女性を演じるエイミー・ルー・ウッドは、黒澤版の小田切みきに通じる自由奔放な現代っ子を好演。そんな彼女が主人公に付けたあだ名は「ミイラ」から「ゾンビ」に変更され、イギリスっぽさを感じさせる。黒澤版を観た事が無い人は十分に感動できる仕上がりだと思うが、比較すると、手法の部分であっさりし過ぎて物足りない。