こーた

生きる LIVINGのこーたのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.0
誰もが熱量を持って行動をしないだけで、誰にでも市民的英雄になることができる。余命宣告を受けた人が後悔しない様にバケットリストをこなしたり、今までは出来なかったことを思い切ってやろうとする話はよくある。本作もその類いではあるのだが、老齢の主人公は今さら何をしたらいいか分からず、途方に暮れるのが印象的。
主人公は生きながら死んでいるゾンビだと言われていたが、単調な日々を過ごす中で波風を立てたり、リスクを冒すことは普通の人にとってすごくハードルが高い。結局彼は仕事を辞めるわけでもなく、むしろ今まで以上に遠回しにしてきた仕事を熱心に取り組むことを選んだ。平凡な選択のように見えるが、誰にでもできることではない。文字通り彼はなりたかった紳士に、最期の最後でなれたのかもしれない。
結果的にその姿勢は周囲の人に影響を与える。いいなあと思ったのは、主人公が死んだ直後はみんなが彼への感謝や、彼のように仕事に取り組もうと志す。しかし再び単調な日々が続くと彼への記憶と共に志は麻痺してしまい、同じことが起きる。本作はそこまで描いている。皆がそうして日常に戻る中で、彼から影響を受けた新入事務員の青年が、行動の兆しを見せる。そんな予感をさせるラストだった。たった一人の行動でも、それが最終的に周りを動かす大きな力に繋がる。文化ってこうやって紡がれるのかなあと思わせてくれました。
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