牛

生きる LIVINGの牛のレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.6
余命宣告された老人の物語である。人間は愚かな生き物で、永遠の命を与えられ自分が死ぬとは思っていない。
そして突然、余命宣告を受け自分の人生が残り少ないことを知る。

この主人公もそのうちの一人。これまで単調な生活で可もなく不可もなく、ただ何の目的もなく働き、本当の自分を抑えて生きてきた。

ところが、余命宣告を受け自分の人生は後半年と知り、そこから周囲に親切にしたり、感じたことを素直に表現したり、仕事に熱心に取り組み、後回しにせず真心を持って業務を遂行した。

主人公が死の間際に、懸命に取り組んだ仕事が身を結び、大きく華開いた。

そして彼は亡くなった。

彼の死後、同僚たちは彼と同じように仕事に懸命に取り組み、責任逃れはしないという誓いを立てたものの半年も過ぎれば忘れ去られ、元の責任逃れの仕事に戻ってしまう。

人間は永遠の命を得たかのようにふるまう時がある。余命半年なら絶対しないようなくだらないようなことも平気でやる。

ある意味、人間は死を意識することで初めて本当の人生が始まるのかもしれない。やりたいことをやって、人に親切にし、残りの人生を懸命に楽しむ。

この主人公は、役所の人間で単調な毎日に嫌気がさしていた。ところが余命宣告をうけ人生の終わりに取り組んだ仕事が満足に終わり、人生で最も満ち足りた日々となったのだ。

実は私もそれに近い仕事をしており、単調な毎日が今後も永遠に続くのかと思ったら嫌気がさしてやる気を失っていた。

頑張っても評価されない、自分のやってることに意味はあるのか?そんなことを自問自答しながら仕事をしていたのだ。

私は主人公の老人と同じ気持ちなのだ。

老人が部下に宛てた手紙がとても心に響いているのでまとめてみたい。

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“最後に懸命に取り組んだ仕事は、言い方は悪いがごく小さなことだ。

遠くないうちに誰も気に留めなくなる。我々の仕事は後世に残るものではない。

もし君がこの先、単調な日々に心を病んだり、働く意味を見失ったら

あの仕事のことを思い出してほしい。

達成した時の小さな満足感を”

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生きるということは、小さな幸せや達成感の積み重ね。そして人生はいつ終わるかわからない。どんな事にも終わりがいずれ訪れるということを改めて感じた作品となった。
牛