天馬トビオ

東京2020オリンピック SIDE:Aの天馬トビオのレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:A(2022年製作の映画)
3.0
国威発揚、メダル至上主義、政治・商業イベント、IOCのぼったくり男爵と金権まみれの主催団体……堕ちるところまで堕ちた現代のオリンピック。加えて世界中に蔓延する新型コロナウイルス感染症の中、賛否を押し切っての強行開催。それでもマスコミはそうした「影」の部分を隠し、開催の意義を強調し、活躍するアスリートを称賛、オリンピックの「光」を前面に押し出してくる。

何かと話題の多い河瀬監督だから、後者の集大成みたいな「よいしょ」映画になってしまったのだろうなという不安を抱きながら、観客ガラガラの映画館でおそるおそるシートに身をゆだねる。ところがである。この映画、ぼくの予想から100万光年離れた、祝祭感ゼロのまさに「異形」のオリンピック公式映画。

1964年の東京オリンピック公式記録映画の市川崑監督作品は「芸術か、記録か」で話題となったけれど、河瀬作品の方がずっと「芸術的」作品だと思う。誰が金メダルを取って、どこの国がいくつメダルを取ったのか、世界記録は出たのか……こうした記録性をいっさい排し、難民、シングルマザー、性差別などさまざまな困難、障害を背負いながら参加した個人のドラマを追っていく。たまたま彼ら、彼女らがアスリートであっただけで、今の世界に生きているマイナーな人々の姿を映し出し、河瀬監督なりの現代オリンピックへのアンチテーゼとも思わせる。シーンが変わるごとに短いカットでインサートする夏の東京の風景が美しい。

オリンピック映画好きのぼくにとって、先に挙げた市川作品、ルルーシュ監督の『白い恋人たち』と並び、芸術的オリンピック公式記録映画として忘れられない映画になった。
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