YAJ

東京2020オリンピック SIDE:AのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

東京2020オリンピック SIDE:A(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

【ふたつ】※SIDE:A/B 合わせてのレビュー

 「ふたつ」あるとどうしても較べてしまう。

 まずは市川崑の『東京オリンピック』(1965)との比較。とはいえ、時代も違うし、やはり初ものは、それだけの評価で済むしね。ただ、本作も前作に倣って「作家性のある作品」とした点は、前例踏襲。そこは二番手の良さもあったのでは。

 そして、SIDE:AとSIDE:Bとしちゃったこと。較べなくてもいいのに、どっちが良かった悪かった、どっちも・・・ってな話を「ふたつ」あることで喚起しかねない。
 市川崑の作品だって169分と長かったんだから、東京2020は、いろんなことがあって180分になりましたでも良かったのかなと思う。市川崑作品は海外版として130分に再編集したVer.があるようだけど、SIDE:A/Bを統合した、すっきりVer.もあってもいいのかもね。

 で、A/B較べたところで、個人的にはSIDE:Aが良かったかな。やはり、オリンピックの記録映画らしかったし。
 いろんな演出、外野の声、そもそも当のオリンピック開催そのものが世相を二分したので賛否もあろうと思うけど、観ないで文句いうよりは、観た上で言ったほうがよい。
 ”耳ふたつあればふたつの寒さかな”(山本一歩)じゃないけど、同時代を生きて、右の耳からは賛成の声、左の耳から反対の声が聞こえることを、生の反応として体感できたので、個人の中で「ふたつ」思いがあってもいいだろうな、とも思う。

 それを咀嚼して、2020-2021を自分の記憶にどう刻むか。その為に残っていて欲しい記録映画だった。 悪くない!



(ネタバレ含む)



 SIDE:Aが良かったのは、やっぱり競技を押さえていたから。でも、単に、勝敗のお話ではなく、テーマは個々人の人生。そして、その選択。
 金メダルラッシュだった日本のお家芸柔道は、難民となり国籍を移して東京五輪に参加した選手の人生にスポットを当てる。盛り上がった卓球、男子体操はこれっぽちも映らない。
 女子バスケットはめでたく銀メダルだったが、描かれるのは、会期延長で選手登録を諦めた日本のエースと、育児しながらの参加をSNSを使って世相を喚起して実現させたカナダ選手との対比だ。
 世界で起こる紛争、分断、難民、ジェンダー問題等々、本作で描こうとしているテーマは徐々に明らかになる。それが東京五輪か?!と言えなくもないが、そうした世界情勢下で開催された五輪だったということがよく分かる。
 むしろ、世界にこうした問題が、個々人の切迫した問題となっている国や地域が多いとことに関心を向けていない人が、なんだこれは、こんなのオリンピック記録映画じゃない、と言ってるんじゃないかな。 想像力を欠くと見えてこないものは多いと、この作品の評価を見てても思う。

 空手の型で優勝した選手の出身地が沖縄であったことから、基地問題に結びつけるのは、やや離れ業っぽくもあったが、新種目のサーフィンと絡め、海洋大国日本として海、自然の大切さ、環境問題も無視できない時代であることを意識させてくれる。この描き方にはちょっと感動させられた。

 沖縄もだけど、特に震災のあった東北など、地方を置き去りにして開催されたオリンピックであったことも、改めて思い出せてくれた。そういえば、コロナ禍で止む無かったとはいえ、元は「復興オリンピック」という大義名分もあったはずなのに、いつのまにか「五輪を成功させてコロナに打ち克とう」と擦り替わっていったなあ・・・。 SIDE:Bの聖火リレーで、少し、地方との繋がりは感じることはできたけど。

 で、そのSIDE:Bは、当時の世相がより色濃く描かれる(ので、五輪味がやや薄れる)。でも、面白かったよ。舞台裏のスタッフの奮闘、混乱を極めたあれこれが良く分かった。
 不評だった開閉会式。その中で意味不明と言われた森山未來のパフォーマンスも、東大寺修二会(いわゆるお水取り)の映像と続けて見せることで、その意味が明確になる。奈良県出身の監督河瀨直美の、ここは面目躍如だろう。

 とはいえ、SIDE:Aを見終わってエンドロールの後に流れたSIDE:Bの予告編で(その前に席を立つ観客が多かったけど)、閉会式のピクトさんの映像をチラと差しはさんだのに、本編SIDE:Bには触れられていなかった。そのミスリードはいかんのじゃない?(ちょっと楽しみにしてたのに・笑)

 まあ、個々人が、あれを入れてこれも入れてと言い出したらキリがない。じゃぁ自分なら何を削って何を入れた?それで一貫したテーマで描けるか? 後世に残せるものが出来たか?
 文句垂れずに、しっかり作品意図を読み取ってみよう。見えてくるものは多かったと思う。

 不平不満、それは、五輪そのものへだったり、あの時代に対してだったりするよね。この作品への評価とは分けて考えたい。

 人を呪わば穴「ふたつ」だ。
YAJ

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