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ザ・ロストシティのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ロストシティ(2022年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

恋愛小説家のロレッタは、新作のロマンティックな冒険小説の宣伝ツアーに強引に駆り出される。セクシーなカバーモデル、アランの軽薄な態度に苛立つロレッタの前に、謎の大富豪フェアファックスが出現。彼はロレッタの小説を読み、彼女が伝説の古代都市の場所を知っていると確信し、彼女を南の島へと連れ去ってしまう…。

80年代の「ロマンシング・ストーン秘宝の谷」に似た設定のため、女性小説家の冒険とロマンスとアクションを期待したが、そのどれもを外しにかかるコメディ。
アクションとしては凡作、だが考えようによってはロマンティック・コメディ自体を揶揄うような皮肉に満ちた作品となっている。
深読みすると(しなくても良いが)結構な毒のある作品だ。

夫を亡くし傷心の中にいるロレッタだが、本を売るには宣伝が必要と、マネージャーに促されて無理矢理セクシーなスパンコールを着せられ、宣伝活動に担ぎ出される。
もう、この時点で年齢不相応な服を着せられるサンドラ・ブロックが可笑しい。

自分すら愛せない人間が無理矢理似合わぬ服を着せられ、マスコミに騒がれる。
そこに「ルッキズム万歳」とばかりに自分の容姿に自信のあるアランが登場し、人々の視線を奪う。
「容姿の良い人物を高く評価する」ルッキズムへの思い切った皮肉だ。
コメディはこの冒頭が沸点である。

一方、行方不明となったロレッタを探すアランは、元ネイビーシールズでCIA工作員のジャック・トレーナーにロレッタの捜索を依頼。
ジャックはロレッタのスマートウォッチから居場所を割り出し、南の島へ。
ジャックから邪魔者扱いされるアランも同行する。
見た目のカッコ良さだけが取り柄で、中身はおバカで間抜けなアランも「ルッキズム」がいかに馬鹿馬鹿しいものかという皮肉である。

卓越した戦闘技術を駆使し、フェアファックスの手下たちから救出されたロレッタはジャックにうっとり。
しかし喜んだのも束の間、その直後にジャックは追っ手に頭を撃たれてしまう。
誰もが思うだろうが、ジャック役のブラッド・ピットが颯爽と登場して、ものの数分で死亡するなんて、何と贅沢な無駄遣いか。
「コメディにこんなカッコいい役は要らねぇよ」とばかりの早々の退場。
同時に「こんなに上手くいく訳ないんだよ」と「ランボー」などマッチョな男が活躍するマチズモへの皮肉である。
ピットの死は本作で最大のギャグだ。

かくしてアランとロレッタはともに島からの脱出を目指すが、追っ手に追われ、大自然の中でトラブルに次々と見舞われることになる。

しかし、残念ながらメインであるロマンチックコメディの要素はあまり面白くない。
デカい身体でキャンキャンと子犬のように慌てるチャニング・テイタムの姿は笑えるのだが、ドジばかり。
こちらも見かけ倒しのマチズモへの批判だろうが、しつこいと単に情け無い役立たずにしか見えない。
チェイスの末、車は大破して崖下に。
連絡手段まで失ってしまい、大自然の過酷な環境に狼狽える。
水に入れば身体に吸い付いたヒルを「取って、取って」と大騒ぎ。
ロレッタの目の前で尻もアソコも恥ずかし気も無く曝け出す姿に「もしかしてゲイなのか?」と疑うほど。
見た目だけだが、やっと掴んだモデルの仕事に誇りを持っていると情け無い心情も吐露する。
彼のどこに男女のロマンスに発展する要素があるというのか?

かと言ってサンドラ・ブロックはかつての若き日の出世作「スピード」や「デンジャラス・ビューティー」のように男性にツッコミを入れたり、リアクションする訳でもない。
もう良い歳した大人の女性である。
置かれた状況をすんなり飲み込んで、あまりアランなど気にもかけずにドンドン進む「放置プレイ」である。
亡き夫から受け継いだ知識をもとに、よせば良いのに宝を探す姿は、小説の次回作のネタ探しに見えて商魂逞しい。

そんな微妙な掛け合いを見せられる中、一人シリアスに気を吐くのは悪役のダニエル・ラドクリフ。
初登場のシーンは飛行機着陸のシーンでテーブルの豪華食材を吹き飛ばす「金の価値が分かっていない生意気なボンボン」で面白い。
中盤以降は弟に家督を取られた兄として、宝を見つけて名誉回復しようと一人だけ必死。
あまりの無理難題と人権無視に部下もウンザリするほど、ただうるさいだけで、彼が出てくるたびにイライラするが、お間抜けなアドベンチャーロマンスを引き締めようと頑張っている。

クライマックスはフェアファックスに銃を突き付けられながらロレッタとアランは、ついにカラマン王の墓を発見。
しかし、重い石の棺を開けてみると、中には王と寄り添うように横たわる王妃の遺骨のみ。
生命辛々逃げて探して、ようやく辿り着いても宝は無し。
「世の中、そんなに上手くいかない」という皮肉を「宝は王と王妃の愛だ」なんて綺麗に纏めようとする。
本当に期待するものをとことん外してくれる脚本だ。

財宝を期待していたフェアファックスは激怒してロレッタとアランを棺に閉じ込めるが、フェアファックスに嫌気がさした部下が捨てたバールを発見して脱出する。

ラストは火山が噴火する中、2人は運良く島を脱出。
助けられた海上保安局の船には部下に見捨てられたフェアファックスもいて、悪党も捕まるハッピーエンドだ。

本作はハッキリ言って、古典的な宝探しの冒険活劇のような輝きはない。
大自然を相手にスタントマンの苦労を想像するようなハードなアクションなどないのだ。
残念だがロマンティックコメディにおいても、もう60歳になるサンドラ・ブロックと40代のチャニング・テイタムでは、見た目こそ若いが、良い歳して何やってんの?というのが本音だ。

スター俳優たちのボケが、ありがちなアクションアドベンチャー映画に対する毒のあるアンチテーゼになっていて、それが最大の魅力と言える。
鉄面皮の逞しい女と情け無い男という構図も、現在もマッチョに頼るアクション映画界への風刺と言えるだろう。
ロマンティックコメディというよりは、ことごとく王道を外すロマンティックなブラック・コメディと言った方が正解だ。

決して心底面白いと思える映画ではない。
しかし、王道を外しまくる違和感だけは記憶に残るだろう。
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