YasujiOshiba

骨のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

(2021年製作の映画)
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MUBI。23-156。『オオカミの家』の後の作品。プロデューサーにアリ・アスターの名前。2021年9月10日にヴェネツィア映画祭で上映、オリゾンテ部門で短編映画として金獅子賞を受賞。

1901年に撮影された世界初のストップモーション白黒フィルムという体裁は『オオカミ』と同じ。ロストフッテージという設定とストップモーションの相性のよさ。

もうひとつはストップモーションの創始者ラディスラフ・スタレヴィッチへのオマージュ。スタレヴィッチが昆虫などの死骸に命を吹き込むものとしてアニメーションを使ったのだから、人間の遺体でも同じことができるだろうというわけか。

こうして登場人物の3人は、それぞれがチリの歴史上の人物となる。骨となったふたりはそれぞれ、それぞれの時代の憲法の父であり、それぞれに暗殺されている。ひとりは1833年憲法の父であるディエゴ・ポルタレス(Diego Portales, 1793-1837)。もうひとりはピノチェト時代の1980年チリ憲法の起草の立役者。ハイメ・グスマン(Jamie Guzman, 1946 - 1991)だ。

その二人の骨を蘇らせる女の子はコンスタンザ・ノルデンフリュクト(Constanza Nordenflycht, 1808 - 1837)。15歳でポルタレスと知り合うが結婚には至らなかったというこの処女の行う儀式は、かつての19世紀におけるチリ建国の父ディエゴと、20世紀における戦後チリの独裁政権に骨格を与えたグスマンを、それぞれ墓場から呼び起すと、それぞれがかつて書いた名前を、逆になぞって消去させてゆく。

それはチリという国が、建国当初から20世紀の後半までのあいだ、ずっと結びついてきた寡頭政治からの決別の儀式。だからこそコスタンザは、政治家たちのサインを逆になぞってかき消させたあと、あの婚姻の書類を燃やすのだ。

こうして蘇った死者は、今一度、死者として黄泉に戻ることになる。そう言う話なのだろう。ここに行われる骨を呼び起こす儀式は、僕らの時代の悪魔を祓う儀式でもあるわけだ。

この寓話で、ぼくはチリの歴史のお勉強をせざるえなかったのだけど、それは同時に、世界史の勉強びなおしであり、今の時代を読み解く鍵を与えてくれる。

参考にしてのはこの記事:
https://www.latercera.com/culto/2021/07/08/los-huesos-asi-se-hizo-el-corto-chileno-en-stop-motion-con-diego-portales-y-jaime-guzman/
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