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エンパイア・オブ・ライトのなおのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.8
今冬の話題作のひとつにして、サム・メンデス監督作品。
戦地を駆けるひとりの青年の活躍を描いた『1917 命をかけた伝令』以来3年ぶりの新作となる。

物語は1980年代初頭のイギリス。
題名にもなっている「EMPIRE」の名を冠した劇場が舞台。

そこで働く中年女性・ヒラリー(オリヴィア・コールマン)と、映画館を無断欠勤したスタッフに代わって職に就いたスティーヴン(マイケル・ウォード)の出会いから始まる。

✏️情熱的なプラトニック・ラブ
年齢差という壁を越えた、中年女性と若い男性の恋愛模様を描いた本作。
これだけ書くと何だか単純なラブ・ストーリーのようにも見えるが、そうは問屋が卸さないといった感じなのがこの映画。

ヒラリーとスティーヴンは親子ほどに歳が離れてはいるけど、二人とも社会的には立派な大人の一員。
のはずなのに、なんだかお互い初々しくぎこちない感じのやり取り、またそこから徐々に熱を帯びていく二人の愛は、まるで中学生か高校生同士の恋愛劇を見ているようだった。

特にヒラリーはその傾向が顕著で見ていて愛らしい。
大みそかのカウントダウン花火が打ち上がった瞬間スティーヴンにチュッ!なんて。
それコテコテの青春ラブコメとかでヒロインの女子高生がやるやつなんよ。

そんなプラトニックな感じを漂わせつつも、二人ともしっかりヤることはヤってる。
それも自分たちが働く劇場の、今は使われていないスペースの一角で。

物語冒頭、ヒラリーは友人らしい友人はおらず、劇場の館長であるエリス(コリン・ファース)とは肉体関係を結び、統合失調症の兆候があるため投薬も行っている。
目に生気が宿っていなかったヒラリーだったが、スティーヴンとの心の触れ合いを通して彼女の心身は快方へと向かっていく。

ヒラリーとスティーヴンの関係以外においても、全編的に「人と人との心の触れ合い」を描いており、見終わったあとはなぜだか心がホッと温まる内容だった。

✏️80年代・ロンドンカルチャー
劇場で働く人びとの人間模様を主に描く本作だが、社会派な一面ものぞかせる。

1980年代初頭のイギリスは”鉄の女”マーガレット・サッチャー政権下にあって、国民の失業率が世界恐慌以来最悪のレベルになっていた。

また、かつてイギリスの植民地であった国から移民が大量になだれ込み、新たな文化を生み出す中で(事実かどうかはともかく)黒人が白人の仕事を奪うという時代背景もあった。

それに反発するのがイギリスの若者たち。
黒人への強烈な差別が国内での分断や断裂を生んだ。

その時代背景が本作でも大変よく描かれており、スティーヴンが侮辱的な言葉を放たれたり言われなき暴行を受けたりするシーンが存在する。

80年代のロンドンカルチャーといえば、本作は「劇場」が舞台。
本作は「映画好きのための映画」という一面も持ち合わせている。

『スター・クレイジー』に『炎のランナー』、本作の終盤を彩る『チャンス』(原題:Being There)など、80年代の映画カルチャーを知る方からすれば興味深く懐かしいシーンが様々。

自分はどの作品も見たことがないので口惜しいばかり。
映写技師のノーマンが、ヒラリーに『チャンス』を見せた理由はなんだったのだろう。

☑️まとめ
心ほっこりする人間模様から、世界恐慌レベルの最悪の不況にもがき苦しむロンドンの人びとの姿までを描いたまさに「ヒューマン・ドラマ」的作品。

先述の通り、80年代ロンドンのカルチャーを少しでも予習してから鑑賞すると、よりこの作品の世界を堪能できるだろう。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★★☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★☆☆

🎬2023年鑑賞数:23(6)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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