自伝的映画が増えてきたのはコロナ禍による産物らしい。なるほど。
80年代イギリスにおける映画館という職場を舞台とした人間模様。
デイミアン・チャゼル監督の『バビロン』を観て(楽しめながらも)何だかモヤモヤされてる方には当作を強くお勧めしたい。
とにかく光の使い方が巧みで美しい。
光と闇の絶妙なバランス。
象徴的なロケーションの変化。
落ち着きのあるカメラワーク。
前述の『バビロン』とは対象的にパンはゆったりとしている。
お話に優しく寄り添う劇伴。
国の事情を背景にした悲しいレイシズム。
オリヴィア・コールマンのなりきり演技。
熟女が乙女に切り替わる瞬間。
若者の成長を促すメンター。
そして同僚たちはみな、主人公のヒラリーが(程度の差こそあれど)好きなんだ。
コリン・ファースがいけ好かない役で、トビー・ジョーンズが大事な役回り。
そしてニールもまた大切なキャラクターだ。彼の観察眼は恐ろしく鋭く、その眼は監視者のそれではなくとても優しい。
老いも若きも男も女も人種も分け隔てなく交わる職場。
引用されるポエム。
虐げられし女性からのカウンターパンチ。痛快。
監督の経験が色濃く反映された当作は、単なるノスタルジーに支配されることなく普遍的且つ味わい深いお話として見事に成立している。
スクロールしないエンドクレジットもステキだった。
派手なアクションやドンパチがなくはっきり言って娯楽性は低めだが、実に映画らしい映画。よかった。
情報量の多いパンフレットもオススメ。