ウーピーブロンズバーグ

エンパイア・オブ・ライトのウーピーブロンズバーグのネタバレレビュー・内容・結末

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

映画館は「遅さ」や「静かさ」・「暗さ」を味わい、スクリーンに映し出された幻想に魅せられる空間であるー。というのを十二分に感じられる映画。

NetflixやAmazon prime等の配信アプリの急速な普及により手軽さや効率さが重視されるようになった現代。コロナ禍も相まって映画館で映画を見るという機会が激減してしまった。そんな現代において、「映画館とは」という問いに真っ向から誠実に答えた映画であると感じた。
実際にサム・メンデス監督はロックダウンによって映画館がなくなってしまうのではないかという危機感からこの映画の制作に至ったそうで。

オリヴィア・コールマンは今回も最高の独身中年女性を演じきった。統合失調症よりかは躁鬱のような感じもしたが映画館のスタッフたち(コリン・ファースを除く)のなんと思いやりのあることか。

物語序盤、エンパイア劇場の立入禁止となっている階のドアを開けるシーンは『風櫃の少年』(1983)を彷彿とさせる。スマホの小さい画面では味わうことのできない、映画館での鑑賞を前提とした表現だ。
終盤、エンパイア劇場で『チャンス』を鑑賞するシーンは作中屈指の美しさ。映写機からスクリーンに映し出される1秒24コマの光の連続、手際よくフィルムを交換し幻想を創り出すトビー・ジョーンズとその幻想に魅せられ、映画によって人生が救われるオリヴィア・コールマンとの一連のシークエンスには思わず涙してしまった。

持ち込み禁止のルールに則りスティーヴンの前で黙々とチップスを食べるおじさんや、プレミア前に観客の前で長ったらしく詩を披露したり、警察の呼びかけを無視して立て篭もるヒラリーのシーンも劇場で見ることでより活きる表現である。

時代背景から当時の社会問題、人種差別やセクハラ&パワハラについても言及してはいるもののこの映画に関してはそれよりも映画館で鑑賞することについて重きを置いているように感じた。その為、脚本重視の作品が好みの方には少し物足りない作品かもしれない。

スティーヴンとの別れがあっても晴々とした表情で再出発を決心したヒラリーのように、鑑賞後は自然と温かい気持ちで前を向ける作品となっている。

オリヴィア・コールマンもマイケル・ウォードもアカデミー賞ノミネートされなかったんですね。今年はレベルが高い。