このレビューはネタバレを含みます
【たった1人の上映会】2023年26本目
映画ファンに刺さる映画がまた一つ。
1980年代、イギリスの海沿いに建つ質素だが絢爛な素敵な映画館。
そのマネージャーであるヒラリーは、他のスタッフと仲睦まじく、たわいもない話をして穏やかに過ごしている。
そこに支配人が現れ、彼女を部屋に呼び出す。性的行為を強要され、彼女は感情もなくただ受け入れる。
シーン代わって、病院で診察を受ける彼女。彼女は問題ない。と断言するも、どこか心ここに在らず。
そんな折、黒人の若き青年スティーブンが新人としてやってきて、2人はすぐさま惹かれあっていくのでした。
その2人の愛の育みが、今や使われていない劇場の最上階であることが、なんとも神秘的に映って、青年の優しさをさらに助長し、そして2人だけの時間を垣間見る私たちを懐かしく温かい気持ちにさせてくれます。
屋上で、カウントダウンの花火を2人眺めながら、その魅力的なスティーブンの横顔に衝動的にキスをしてしまうヒラリー。
その瞬間のひととき。ヒラリーの安住の地はそこにありました。
しかし、いつも仕事場では明るく振る舞うスティーブンも、差別に悩まされており、白人にいじめらる場面をヒラリーは目撃してしまいます。彼も社会の不平等の渦中にいるのでした。
劇場に食べ物を持ち込もうとするお客さんに対して発言するスティーブン。ヒラリーはそれをマネージャーとしていなします。正しいことをしているだけなのに、どうして自分が下手に出なければならないのか。どうして間違っているような空気に晒さられなければならないのか。
そうして互いに衝突もありながら、理解し合っていきます。しかしヒラリーに異変が。砂浜でお城を作っていると彼女は、その山を一つ一つ壊して、"男の支配と強欲さ"に怒りを露わにするのでした。城=権力の象徴という関連もあるのでしょうか。2人の関係性は徐々に崩壊し、ヒラリーは家に籠るようになります。
エンパイア劇場でプレミア上映される「炎のランナー」に、多くのお客さんが訪れる中、突然ヒラリーが目立ったドレスを着て現れ登壇します。
彼女の性格は一変し、暴言を吐くように。
狂気に見えつつも、どこかカッコよく見えてしまったのは私だけでしょうか。
皆感情を抑えて生きているのだなと感じさせられる一幕でした。
落ち着きを取り戻し、劇場に復帰したヒラリーでしたが、黒人差別は激化し、強硬派が劇場に押し入り、暴行を受けるスティーブンを目の前に何もできない彼女。
スティーブンの見舞いで彼の母親と出会い、そして彼の思いを伝えられます。
まだ若いスティーブンは、夢を追い大学へ進学。2人は別れを告げます。
ヒラリーは映写技師のノーマンに映画を流してと伝え、たった1人の観客として、初めての映画鑑賞をし、涙します。
高速に回転するフィルムには、目に見えない速さで画像と画像の間に一瞬の闇が差し込まれています。
それが映像として見えている。
人間の心の闇も表面的は感じ取れませんが、深く理解するとその闇に気づき、そしてそれは必要であることに気づきます。
闇は思い込みによって拡張され、時に真っ暗な静止画として目の前に現れるかもしれません。そんな時に誰かの優しさや映画の光を浴びて、私たちは心を明るく照らし続けることができるのです。
目の前がぼやけるほどに涙を流して、心を浄化する。映画への愛は世界を救うと感じるのです。