空きっ腹に酒

エンパイア・オブ・ライトの空きっ腹に酒のレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
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優しさを感じたのは、たぶん、あの映画館に働く彼らから(支配人を除く)他人に対する壁というか、境界線みたいなものを感じなかったからだと思う。スティーヴンに対する接し方は、街を歩いているだけで罵声を浴びせる奴らとはまるで反対の、肌の色の違いなんか微塵も感じさせないものだったし、心が不安定になってるヒラリーのことも特別視しないところとか、病院からかえってきた彼女を待っていてくれたところとか。なんか、そのままでいいんだよってまるっと受け入れてくれるような懐の深さみたいな、安心感を与えてくれるひとびとだなあって、わたしは思った。誰かがつらいときにはそれぞれのやり方でそっと寄り添おうとしたり、なんて声をかけようかと悩んだり、シンプルに”支えたい、力になりたいんだ”って優しさがじんわりと伝わってきて、まさにそれこそが(人生における)暗闇の中の光にあたるものだとわたしは思うし、そういう瞬間にひとは生かされたりするのだと思う、映画館で素晴らしい映画を観たときのように。

自分の気持ちを素直に伝えられないヒラリーが、最後に人目を気にせずスティーヴンにハグをしに駆け寄るシーンが本当に良かった。ふたりの関係は友だち以上の、でも恋人とは呼べないなにか。名付けようのないふたりだけの関係って、ステキだなあとわたしは思う。そもそも関係性をラベリングしておさめるのもおかしな話であるとは思うけど(でもひとがそうしたがるのは安心したいからなのかね)、曖昧さは大人だからこそ深く味わえるのだと思うし、そこから経験したことは生きる糧となるから、大事にしたっていいと思う。年も、肌の色も、まわりの目も、なにも関係なく成立して、あなたと出会えたことで変われた。って、思えるような縁って人生でもめちゃくちゃスペシャルでポジティブじゃんか。眩しくうつったのよ、ヒラリーとスティーヴンが。


「しあわせとは、心の在り方」
空きっ腹に酒

空きっ腹に酒