木蘭

エンパイア・オブ・ライトの木蘭のレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.7
 郷愁感たっぷりに描かれる1981年英国地方都市の映画館を舞台に、年齢や人種と言ったバリアーを乗り越えて生きようとする人々の物語。

 とにかく圧倒的な映像美で、特に何か意味がある訳ではないシーンでも、映像と音楽だけで人を感動させるだけの力があって凄い。
 特に冒頭の映画館が開演するシークエンスは、それだけで落涙してしまった。

 監督の半自伝的な作品であるが故に、映画や劇場、あの頃の文化に対する愛情とノスタルジーに充ち満ちている・・・
と同時に、当時の英国病と言われた不景気と社会の不安定化、愛国と新自由主義を掲げる保守党右派のサッチャー政権の幕開け、劇中で吹き荒れるスキンヘッズ達の暴徒化は、あの時代に重ね併せて今日的な問題も提示している。

 基本はヒロインと黒人青年の関係を軸に描かれる、孤独な大人達の人情話。
 いくつかのエピソードが積み重ねられるタイプで、何か大きな物語があるわけでは無い。
 映画館もあくまでも職場に過ぎず、情感たっぷりに描かれる名作映画や当時の流行音楽も背景であって、物語の直接的な媒介には成らない。
 なんか山田洋次あたりが撮っていそう。

 悪くないんだが今一つ乗れなかったのは、ヒロインと黒人青年とが心を通わすのは理解出来るが、身体まで(サクッと)通わせる説得力が全然無いからなんだな。
 ヒロインが瑞々しい青年に情欲を感じるのは分かるが、ヒロインを演じるオリヴィア・コールマンは、年齢や人種といったバリアーを飛び越える様な色気のある女優さんでは無いよ。
 シュディ・デンチをヒロインにすえた『007・スカイフォール』と、登場人物の造形や配置が似ていて・・・監督の趣味なのかも知れないけど・・・ミスキャストだと思う。
木蘭

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