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ティルのGreenTのレビュー・感想・評価

ティル(2022年製作の映画)
1.0
私が苦手なタイプの黒人映画です。

メイミー・ティルは黒人のシングルマザー。シカゴでエアフォースのタイピストとして働き、一人息子のエメット、母親のアルマ(ウーピー・ゴールドバーグ)と幸せに暮らしている。

14歳のエメットは夏休みをミシシッピの親戚の家で過ごすことが待ちきれない様子なのだが、南部の黒人差別の実態を知っているメイミーはエメットを行かせたくない。アルマはメイミーに、過保護になるな、エメットも大人になるんだから心配するなと言う。

案の定エメットは、白人の経営するコンビニのレジ係の女性(ヘイリー・ベネット)に気軽に話しかけ、そのせいで白人の男たちから誘拐され、拷問され、殺される。

メイミーはエメットの拷問され水膨れになった死体を敢えて公表し、人種差別の残酷さを訴え、歴史に名を遺す公民権活動家になりました。以上。

個人的な感想を言うと、「手垢のついた話をフラットな脚本で、映像的な楽しさなしに描いたつまらない作品」でした。だけど、劇中で描かれる黒人差別が想像を超えるひどいものなので、こういう作品を「つまらない」と思うと罪悪感を感じる。こういう気持ちにさせられる黒人映画って苦手なんです。

14歳の男の子がノー天気に振る舞っているだけなのに、リンチされて殺され、誰も罪に問われない・・・・。こういう話を知らなかった人には衝撃だと思うのですが、アメリカの映画ではこういう話はすでに色んな映画にされている。

こういう話が「既視感満載」ってこと自体にゾッとするんだけど、映画としては「もう分かったよ!」と言いたくなる。

昔はこういう映画を観て感情移入できないと、「私って人種差別をなんとも思わない冷たい人間なのかな?私も人種差別的な人なのかな?」って、いや~な気持ちにさせられ、だから避けがちになってしまっていたのですが、今回観て、「感情移入できないのは映画の撮り方がヘタクソだからでは?」と思った。

全ての人種差別を扱う映画がつまらないわけではないが、この映画に関しては、ストーリーは本当に淡々と時系列通りに進んでいくだけ、シネマトグラフィーは「ハッ」とさせられない。音楽が最悪!あの、トラディショナルなオーケストラの「映画音楽」で、「無料で使えます」ってところからテキトーに選んできたようにしか聞こえない・・・。

主人公のメイミー・ティルを演じるダニエル・デッドワイラーが迫真の演技、と評価されているのですが、私は全然いいと思いませんでした。エメットの死体がシカゴに輸送されてきて、駅で棺桶にしがみついて泣くシーン・・・・。あまりにもヤラセっぽくてシラケた。涙出てないし。

その後、葬儀屋で初めて死体を見るシーン。このシーンはボロボロ泣いていたけど、全く刺さらない。なんでかって言うと、「これでもか」って言う母親の顔のアップ、とにかくオイオイ泣く・・・。感情を表現する手法が稚拙すぎる。

ちなみにこの事件は実話で、メイミーは本当に変わり果てた息子の姿を公にしたことで有名らしいので、エメットが拷問されるところは映像化せず、死体の方を克明に再現して見せているんですね。で、もちろん作り物なんだけど、これがリアルなのかどうか「作り物としての出来」がどうなのかがわからない。リンチされた溺死死体なんて見たことないから、嘘くさく見えても本当にああいう感じなのかもしれないし。

監督・共同脚本はシノエネ・チュクウという黒人女性で、主演のダニエル・デッドワイラーがアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされなかったことを「ホワイトネスを守り続け、黒人女性に対するミソジニーを恥ずかしげもなく続けるアカデミー」と批判したらしい。

この話は実は、主演女優賞にノミネートされたアンドレイラ・ライズボローの『To Leslie トゥ・レスリー』のキャンペーンの話が絡んで来る。『To Leslie トゥ・レスリー』のPRが展開した「映画を観ていい映画だと思ったらソーシャルメディアで紹介してね、とセレブ友達にお願いするキャンペーン」が功を奏してアンドレイラ・ライズボローがノミネートされたのだが、このキャンペーン手法はルール違反じゃないのかって議論になったが、「まあアレだけど、ギリセーフ」って感じでノミネートは取り下げられなかった。

でも、そのせいでノミネートから漏れてしまったのがダニエル・デッドワイラーだったんじゃないのってことで、チュクウ監督の発言となったらしい。

ちなみにオスカー授賞式では、司会のジミー・キンメルが『ティル』はいい映画だよ、と何気なくスピーチに挿入していたので、忖度だったんでしょうね。

私は、オスカーはそもそも判断基準がいい加減なので、素晴らしいパフォーマンスの人がノミネート・受賞しなくても驚かないが、自分で映画を観た主観で言うと、別にこの女優さんも大したことないと思う。

チュクウ監督は、受賞を逃したことを人種差別やミソジニーのせいにする前に、自分の映画製作のレベルを上げることを考えて欲しい。役者が輝かないのは本人の演技のせいだけじゃない。映し方とか演出の功績は大きい。チュクウ監督のもう一つの作品『Clemency』も私はたまたま鑑賞していたのだが、この映画もつまらない映画だった。

この『ティル』は、事実に基づいた話、黒人差別、子供を失った母親、そして公開日が10月1日と、完全にオスカー狙いとしか思えない。で、音楽が最悪って書いたけど、この音楽が露骨にオスカー映画っぽい音楽なんだけど、ほんっとに90年代以前の古い感覚の「オスカー映画音楽」で完全に時代遅れだし、「オスカー狙い」にしては安っぽいという問題もある。

つまり、批判している映画賞を獲りに行ったってのに欺瞞を感じるし、また獲れなかったからって人種カードと性差別カードを切るのも都合がいいなあと思う。

まあでも、数々の小さな映画賞で評価されているので、そういう功績があるのにアカデミーに無視されたって思うんだろうけど、小さな映画賞をたくさん取っていてもアカデミー賞を獲らない映画なんてごまんとある。

それに今年は「白すぎるオスカー」じゃないしね。もうこの切り札は使えなくなってきているよね。
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