真魚八重子

ティルの真魚八重子のネタバレレビュー・内容・結末

ティル(2022年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

黒人側から描いた、迫害してくる白人は蛮族であり、会話が成立しない存在である。それで正しいと思う。

ただ本作は力みすぎというか。夫が戦死し、空軍で働いて息子エメットを育てている黒人女性のメイニーは、優秀なのだろう。黒人と白人の間の断絶は埋めがたく、エメットが短期でミシシッピへ出稼ぎに行くことも恐れている。特に黒人差別の激しい所だからだ。彼女はエメットに、白人とトラブルを起こさないための所作を逐一教えるが、生まれつきバカみたいにお調子者のエメットは、ふざけた返事しかせず耳を貸そうとしない。

案の定、白人女性が一人で店番をしている店で、エメットは彼女にナンパの要領で話しかけ、口笛を吹く。それが火種となり、エメットは数日後に暴行を受けた跡のある水死体として発見される。

これはたびたび書かざるを得ないんだが、重要なメッセージ性を持っている映画が、うまい演出をしているとは限らない。後半は訴えるメイニーのバストショットが連続し、そのまま誰かが背中を向けて号泣するシーンが繰り返されて、退屈してしまう。
土左衛門となったエメットの遺体を、メイニーは葬儀に参列した人々に、どれだけひどい仕打ちを受けたか見せつける。でも顔が膨らみすぎて暴行の跡が見えない。ただの水死体のようにも思われかねなくて、事実に即したのかもしれないけれど、どうしてそんな演出にしたのかと疑問に思う。

カポーティの小説などで、淡々とリンチを記した文章を読む方が残酷で、白人の理由のない差別主義の恐ろしさが伝わってくる。不気味なのだ。
エメットの落ち着きのなさは、黒人の間でも軋轢を生みかねないものである。自分の彼女に目の前で口笛を吹いてひやかす素振りを見せたら、血の気の多い男なら怒るだろう。そういう演出の基盤がうまくいってないと思う。
真魚八重子

真魚八重子