Iwa

ティルのIwaのネタバレレビュー・内容・結末

ティル(2022年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

辛い
アフリカ系への南部でのリンチは文字で知っていたけど、冷静に考えれると戦後にあんな野蛮なことが行われてたなんて信じがたい(いや文字でも信じがたかったけど、より)。
あんな元気な子が、箱に入ってあんな姿になって帰ってくるなんて信じられない。私は子供いないのに、それでも想像しただけで胸が張り裂けそうになる

「デトロイト」や光州系のを観た時も思ったけど、国や権力(警察や裁判所、軍)が自分達に味方してくれない、むしろ敵であるということの絶望、不安、恐怖は筆舌に尽くしがたい

リンチ殺人者みたいな下劣な犯罪者が安穏としてるのも勿論だけど、それを”当然”とする雰囲気も胸糞悪い
アフリカ系だけ裁判所で身体検査をしたり、子供達までからかって笑ったり(大人も叱らないで笑う)、裁判中に検察さえ敬意を払わずに下の名前で呼び捨てにしたり、命をかけて証言してる人に最低なヤジを飛ばしたり。母親への、息子の生命保険に関する意味不明な質問への異議が却下されたり。
テレビも、「この文明社会で親が死んだ子供を見世物に!」(いやヤバいのはリンチした方だろ…)、「母親はペテンだ」みたいな意見が取り上げられる

でも、リンチまでいかないまでも、この報道…特に非難されずに報道されてるところを見ると、その意見に同調する大衆がいる…に関しては、今例えば性犯罪系の事件が報道されるたびに「売名じゃない笑?」っていう発言が出る、銃乱射事件でさえ「自作自演だ」なんて陰謀論が出るこの世界では、決して「信じられないこと」ではない。
間違いなく地続きだし、ともすればああいうことをする生き物なのだと思い知らされる。
「夜と霧」の、ガス室を作ったのは人間だが、その中で毅然と祈りを捧げられるのも…というフレーズが頭をよぎるが、どうしても前者の卑劣さ、残酷さ、幼稚さが際立ってしまうよね。
あれから60年以上も経つのに、いまだにこの映画が上映される意味が確かにあるのだし。

wiki情報だけど、火種になった夫人はあの証言が嘘だと認めてるぽいね。彼女も当時21歳、私からするとまあ彼女も子供だけれどもね…よくもまあ、自分のせいで子供が死んでて、夜ぐっすり眠れるよな
そもそもあの証言はなんだ??事件に関係ないならするな。するなら、店内で起きたことに関して、検察側の証人も用意しろよ。何回あの子を殺せば気が済むんだ。

…という怒りが、ともすると間違った方向に行ってしまいそうになる。
裁判所で笑いが起きるシーンとか、キングスマンの教会のシーンみたいにしてやろうか??って思っちゃう。なんて醜い人々なんだ、とも。
でもそれは彼らがやった卑劣な行為と根っこが同じだからね!そういう行動を取らずに、言論に訴えるっていうのは、尋常でない勇気と忍耐が必要だよね…。

で、まあ、映画としてどうだったかというとちょっっと盛り上がりに欠けるかなという気はした。
当時の最悪な雰囲気は丁寧に描かれていて感情移入しやすかったし、色彩や映像も美しかった。事件が起こる前のメイミーの鮮やかな服装も良いよね。全編通して、凛とした立ち姿も美しい。
キャロラインとメイミーをある種対比させたというか、同じ母親なのに全く意思疎通ができない感じも、差別の根深さを感じさせた(暴力的な男たちだけが敵ではないというか)。
エメット役の子も、もう本当に子供!って感じの無邪気さでね…。

なんかこう、最初はただ母親として自分の息子のことだけを考えていたのに、活動家になっていくってところの描写がもう少し盛り上がってたら良かったのかな…。いやそれが軸じゃないからしょうがないのか…?ニューヨークで演説するシーンを挟みながらも、最後はまた母親として終わらせるってのもなんかな…?って感じ…かなあ…。あの助けてくれた従兄弟?がさ、ちょっと無神経っていうか息子無くした母親に「良い機会だ」はないだろ…っていう、こう活動家のちょっと微妙な面を見せつつメイミーもそうなってくやんか
そこの変化が少しついていけなかったかなあ…

まあ、裁判での証言シーンは素晴らしかったけど!!顔が変わってても息子だと分かる、というところもだけど、「14年間愛情で育ててたから、憎しみが理解できなかった」みたいなセリフ、
多分白人たちが思っていた動機は「憎しみ」ではなく「正義」だよね(な訳ねえのにな)。それをはっきり「ヘイトだ」って言い切る、聞いてる白人は何も思わなかったのかしら。「生意気だな」くらいかな。
wikiに載ってたあの2人のインタビューでも、意訳だけど「黒人の立場を”わからせる”ために」みたいなこと言ってるもんな。
あのあからさまな悪意と対峙してもなお、気高く証言する姿は素晴らしかった

あと、文明社会とは思えない判決を聞きながら街を走ってる時の、道ゆく人々が送る敬意も感動的。
Iwa

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